点群とAIを土木の設計や維持管理に応用する最新の技術動向【土木×AI第23回】“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(23)(2/2 ページ)

» 2024年02月27日 10時00分 公開
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点群セグメンテーションで河川構造物の設計や維持管理に活用

 深層学習を用いた画像認識の一つ「セマンティックセグメンテーション」※4を点群データに応用することで、地物や部位などを効率よく分類可能です。

※4 “土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(4):「コンクリ構造物のひび割れAI点検で精度を上げるには?段階的手法の有効性」

 文献5では河川構造物の設計や維持管理を取り上げています。下図は、河川の周辺道路の地物(付属物)を分類している例です。下図の点群データに対して、AIによる点群セグメンテーションを適用した結果がその下の図になります。高い精度で、分類していることが分かります。

対象箇所付近の点群データ 対象箇所付近の点群データ 出典:※5
点群セグメンテーションの結果。左:正解、右:AI 点群セグメンテーションの結果。左:正解、右:AI 出典:※5

※5 「点群セグメンテーションを用いた3次元モデリング手法の検討−河川構造物設計・維持管理分野への適用−」平松佑一,山脇正嗣,田頭直樹,北川照晃/AI・データサイエンス論文集4巻3号p897-908/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年

 鋼構造物は、下図左のように、部材や鋼板が複雑に組み合わさった形状をしていることが珍しくありません。そのため、既設構造物を鋼板などで補強する場合は、現場の寸法や形状を計測して設計する必要があります。そこで、下図右のように現況を点群で取得した上で、コンピュータ上で補強板の3次元モデルをあてはめることで、補強の設計や施工を合理化しようと試みているのが文献6です。複雑な形状も3次元で見通しよく検討することが可能になります。

鋼製橋脚の隅角部(左)と点群データおよび補強板のモデル(右) 鋼製橋脚の隅角部(左)と点群データおよび補強板のモデル(右) 出典:※6

※6 「鋼製橋梁の保全工事における点群データ活用に向けた検討」大木奎一,竹本大地,横山徹,横山ゆい,原直人/AI・データサイエンス論文集3巻J2号p668-674/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2022年

 点群を活用すれば、土木構造物の3次元形状を効率的に取得できます。点群データを処理することで、部材を認識して分類し、寸法や体積などの数値を得られるため、施工や維持管理の“現場DX”につながる基本的な技術となっていくのではないでしょうか。

 点群データから3次元モデルを生成したり、解析計算に利用したりするなどのユースケースへの適用も進められています。AIとの組み合わせによって、点群計測や処理の精度が向上し、利活用シーンがさらに広がっていくことが期待されています。

著者Profile

阿部 雅人/Masato Abe

ベイシスコンサルティング 研究開発室 チーフリサーチャー。防災科学技術研究所 客員研究員。土木学会 構造工学委員会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会 副委員長を務めた後、現在はAI・データサイエンス実践研究小委員会 副委員長。インフラメンテナンス国民会議 実行委員も兼任。

近著に、「構造物のモニタリング技術」(日本鋼構造協会編/コロナ社)がある。

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