点群とAIを土木の設計や維持管理に応用する最新の技術動向【土木×AI第23回】“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(23)(1/2 ページ)

連載第23回は、土木領域の設計や施工、維持管理などで活用が広がっている「点群」にスポットを当てます。点群から形状を抽出する方法や施工前後の比較、深層学習を用いた「セマンティックセグメンテーション」で地物を分類する研究などを紹介します。

» 2024年02月27日 10時00分 公開

 設計・施工や維持管理の現場で、「点群」を目にすることが増えています。点群は、実際のインフラ形状を点の集合として、3次元で把握することができます。

点群データ取得は「レーザー計測」と「写真測量」の2種類

 点群データの取得方法には、大きく分けて「レーザー計測」と「写真測量」の2種類があります。レーザー計測では、レーザー光の反射によって対象物までの距離を測り、3次元座標を得ており、「LiDAR(Light Detection And Ranging)」とも呼ばれます。

 また、写真測量では、対象物の写真を複数の位置や方向から撮影し、共通の特徴点をひも付けて、撮影位置と方位角を推定することで3次元形状を構築しており、「SfM(Structure from Motion)」とも言われます。レーザー計測は、比較的高価な計測機材を要する一方、写真測量は市販のデジタルカメラでも可能です。ただし、レーザー計測と比較すると精度が劣る傾向があります。

 点群データを一見すると、建物や道路など、計測対象が分離しているように見えますが、実際は色がついた3次元座標の点が無数に集まっている状態です。下図左は、鋼桁の点群の例です。このままでも、3次元で形状を可視化することができますが、施工や維持管理に適用するには、部位や部材などを分離して抽出する必要があります。鋼板やボルトなどの数量集計や断面計算を行うには、下図右のように要素を抽出して、面で表したサーフェスモデルなどが用いられます。

鋼桁の点群モデルとサーフェスモデル 鋼桁の点群モデルとサーフェスモデル 出典:※1

※1 「構造物の維持管理における点群処理技術に関する技術動向と今後の課題」門田峰典,宮森保紀/AI・データサイエンス論文集2巻J2号p333-340/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2021年

連載バックナンバー:

“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト

本連載では、土木学会 AI・データサイエンス実践研究小委員会 副委員長を務める阿部雅人氏が、AIと土木の最新研究をもとに、今後の課題や将来像について考えていきます。

 文献2では、点群から形状を抽出する方法が解説されています。下図はその1例で、左図の例では、赤い点で示した高さ方向のz座標の値が小さく、かつ面の垂直方向である法線ベクトルがz軸に平行という特徴を持つグループを地面として抽出しています。図の右の3つの図は、各面の法線ベクトルが平行の領域を順次広げ、法線ベクトルが急に変化するところまでを同じ面と認識して、面を分離する方法を表したものです。

法線による地面の認識例(左)と領域成長法による面の抽出えのイメージ(右) 法線による地面の認識例(左)と領域成長法による面の抽出えのイメージ(右) 出典:※2

※2 「点群データ処理アルゴリズムの総括および土木分野での活用事例と展望」日高菜緒/AI・データサイエンス論文集4巻3号p301-309/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年

 文献3では、点群データの施工への適用例が紹介されています。下図左は、施工前後の点群を比較して、施工前に対して施工後が高さ方向にプラスであれば赤色、マイナスであれば青色、変化が無ければ白色で表示しています。それによって、進捗状況を分かりやすく可視化できます。また、下図中と右は、施工前後の盛土の赤枠内の体積を点群データから算出している例です。

施工進捗の可視化(左)、施工前盛土(中)と施工後盛土(右)の体積算出 施工進捗の可視化(左)、施工前盛土(中)と施工後盛土(右)の体積算出 出典:※3

※3 「3次元点群データを用いた施工進捗の可視化と情報システムの構想」山口愛加,原田風渚,窪田諭/AI・データサイエンス論文集3巻J2号p277-286/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2022年

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