連載第20回は、“デジタルツイン”にフォーカスして、土木工学の分野でどのような活用が検討されているのか、最新事例を交えながら解説していきます。
建設業界では、ここのところデジタルツインの環境整備や活用例が、目に見える形で増えてきています。
デジタルツインの概念は、1991年にコンピュータサイエンス研究者のデイヴィッド・ガランター氏が著した「ミラーワールド(Mirror Worlds)」で、物理世界を鏡のように忠実に映したサイバー空間の概念がその起源であるとも言われています。2002年には、マイケル・グリーブス氏によって製造業のライフサイクルマネジメントへの応用も提案されています※1。
このように、そのアイデア自体は以前からありますが、3次元のセンシングやモデリング技術の発展を背景に、最近は特に急速な広がりを見せています。国土交通データプラットフォームでは、工事や業務のBIM/CIMデータと3次元点群データ、建物などの地物を3次元で生成した3D都市モデル「PLATEAU」のデータなどが公開されており、デジタルツインの発展を後押ししています※2。今回は、デジタルツインの先進的な応用事例を見てみましょう。
※1 「デジタルツインの概念と土木工学への応用」杉崎光一,全邦釘,阿部雅人/AI・データサイエンス論文集4巻2号p13-20/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年
静岡県では、高密度の点群データを航空測量などで取得し、防災や街づくり、インフラ維持管理や自動運転、観光などさまざまな領域での活用を進め、オープンデータとして公開する先駆的な取り組みを進めています※3。
2021年7月に発生した熱海市の土石流では、このデータを迅速な被害状況の把握と2次災害対策に活用。2009年の標高データと2019年の点群データの比較で、土石流の発生源の土砂が“盛土”だったことをいち早く明らかにしています。さらに、被災後のドローンによる計測と比べ、下図のように地形の変化と崩壊土砂量などを算出し、災害規模の把握に役立てています。
注目講演:
デジタルツインによる「まち」づくり 〜VIRTUAL SHIZUOKA構想〜
静岡県では、新たな社会インフラとして県下全域をレーザスキャナーで測量し、点群データの取得とオープンデータ化を進め、仮想空間に県土を再現する「VIRTUAL SHIZUOKA構想」を推進しています。本講演では、点群データを「デジタルツイン」の基盤データとして、新たな価値の創造を目指す取り組みについて、静岡県 デジタル戦略局 参事 杉本直也氏にご紹介いただきます。
※アイティメディアが運営するヴァーチャルイベント「ITmedia Virtual EXPO」とは、インターネットに接続されたPCやタブレット端末などのスマートデバイスから、24時間いつでもどこからでも、無料で来場できる春と秋の年2回開催の“仮想”展示会。会場では、基調講演、各EXPOで用意された特別セッション、出展社によるセミナー動画の視聴や各種資料・カタログのダウンロードなどが行えまず。会期は2023年9月29日まで。
【本EXPOの配信は終了いたしました】
また、静岡県の都市3Dデータ化では、防災面でも点群データを用い、「南海トラフ地震」が起きた際の津波シミュレーション結果を見える化しています。津波の高さや到達時間などを分かりやすく示すことで、避難意識の向上につなげています(下図)。
★連載バックナンバー:
本連載では、土木学会 AI・データサイエンス実践研究小委員会 副委員長を務める阿部雅人氏が、AIと土木の最新研究をもとに、今後の課題や将来像について考えていきます。
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