AIが“快/不快”の感情で景観を評価 インフラ整備前の社会調査にAIを活用【土木×AI第33回】“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(33)(3/3 ページ)

» 2025年06月18日 10時30分 公開
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深層学習モデルで景観を見た快/不快の感情を評価

 画像情報の利用も進んでいます。文献8では、オープンデータとして公開されている情動画像のデータセットにして学習した深層学習モデルを用い、快/不快の感情価を評価し、下のように景観の良否の推論に応用しています※6

感情値上位画像の例 感情値上位画像の例 出典:※8
感情値下位画像の例 感情値下位画像の例 出典:※8

※8 「情動画像で学習した深層学習モデルの景観画像評価への適用性の検討」山本義幸/AI・データサイエンス論文集4巻3号p757-765/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年

 文献9では、公共空間の居心地の良さに関する調査に対して、AIで自動化する手法を提案しています。通常は人手で分類している人の行動について、画像を言語化する“マルチモーダルAI”で判定を試みています。

画像をもとにした行動理解の例 画像をもとにした行動理解の例 出典:※9

※9 「マルチモーダルモデルを用いたアクティビティ調査の自動化手法の提案」岡野将大,藤井純一郎,工藤雄介,本田一彦/AI・データサイエンス論文集5巻3号p593-599/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2024年

 画像以外にも、IoTデバイスを用いた観光流動調査から出身国や交通手段別の訪問率、滞在時間などの行動特性を分析し、Web情報のテキスト分析と組み合わせ、観光地の魅力向上につながる知見を得る実験も行われています※10

※10 「外国人観光客の行動特性とweb情報との関連分析 ―沖縄県八重山地域を対象として―」上地安諄,神谷大介,趙函奇,山中亮,我部新,福田大輔,菅芳樹/AI・データサイエンス論文集4巻3号p646-655/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年

 社会調査は、よりよいインフラ整備に欠かせないものですが、そのデータの整理や集計、分析に人手を要することが多く、多大な労力がかかる場合が少なくありません。AI、とりわけLLMによって、効率的な調査が可能となり、質の高い調査が実現されることが期待されます。特に最近提案された「MCP(Model Context Protocol)」を利用することで、より効率的に多様な調査への適用が可能となると思われます※11

※11 “AI界隈”が注目「MCP」って何?──KDDI子会社の解説資料が「分かりやすい」と話題/ITmedia AI+

著者Profile

阿部 雅人/Masato Abe

ベイシスコンサルティング 研究開発室 チーフリサーチャー。防災科学技術研究所 客員研究員。土木学会 構造工学委員会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会 副委員長を務めた後、現在はAI・データサイエンス実践研究小委員会 副委員長。インフラメンテナンス国民会議 実行委員も兼任。

近著に、「構造物のモニタリング技術」(日本鋼構造協会編/コロナ社)。

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