東京大学大学院 工学系研究科の清水雄太氏らによる研究グループは、AIの深層学習で、大量の岩石を高速かつ高精度に自動識別する実用的なアルゴリズムを世界で初めて確立した。斜面のモニタリングによる防災/減災、建設現場でのドローンや定点カメラを活用した資材管理、インフラ点検、土壌/地盤状況の解析などへの応用が見込める。
東京大学大学院 工学系研究科の特任研究員 清水雄太氏と教授 宮本英昭氏(地球惑星科学専攻兼任)らの研究グループは、AIの深層学習(ディープラーニング)を活用し、大量の岩石を高速かつ高精度に自動識別する実用的なアルゴリズムを確立したと2025年4月に発表した。
研究では、独自に収集した数万個に及ぶ岩石の輪郭データを基に新たな解析手法を開発。JAXAの探査機「はやぶさ2」とNASAの「OSIRIS-REx」ミッションで捉えた小惑星「リュウグウ」と「ベヌー」を対象に、表面にある1メートル以上の全ての岩石粒子を初めて網羅的に識別し、形状と分布を解明した。高解像度画像約1万枚から350万個の岩石粒子を識別し、画像間の重複を取り除き、総数20万個の岩石が存在することを解き明かした。
計測の結果、両天体では表面の土砂が逆方向に移動していることを突き止め、その原因はわずか数時間の自転速度の差にあることも解明された。
これまで岩石の分布把握は、大小さまざまな形状の土砂が膨大に含まれる集合体を対象にする場合は、時間的な制約で解析しきれなかった。また、手作業の解析では、正確性や客観性、再現性の確保が難しいという課題があった。
そこで研究グループは、約7万個の岩石の輪郭データから、「畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network)」を用い、岩石を高速かつ高精度に自動識別する手法を確立した。畳み込みニューラルネットワークは、画像内の局所的な特徴を抽出するための畳み込み層と、プーリング層を組み合わせた深層学習モデル。
今回の研究成果は、研究者が一生かけても解析しきれない膨大な数の岩石でさえ、解析可能になったことを意味する。岩石は身近な環境のみならず、太陽系内のあらゆる岩石天体に普遍的に存在するため、その性質や分布の詳細把握は、自然環境や地質学的現象の解明に役立つ。
また、斜面の常時モニタリングによる防災/減災システムへの利用、建設現場や鉱業でドローンや定点カメラを活用した簡便で迅速な資材管理、都市インフラ点検や土壌/地盤状況の解析など、大量の土砂の状態把握が必要となる多様な分野で、課題解決の鍵となることが期待される。
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