Arentは、維持管理でのBIM活用を見据え、BIMモデル作成の自動化/省力化に取り組んでいる。そこで必要となるのが、業務を1つのSaaSで一元管理する業務基盤の「ERP型」から、BIMを“共通言語”として複数のツールと連携させ、全工程でデータを流通させる「アプリ連携型」への転換だ。その実装例としては、高砂熱学工業と共同開発した設計・積算・施工・維持管理に関わる9領域を横断する業務支援プラットフォームがある。
建設業界を中心にDXコンサルティングやシステム開発を手掛けるArent(アレント)は、「メンテナンス・レジリエンスTOKYO2024」の構成展示の1つ「第18回 インフラ検査・維持管理展」のセミナー会場で代表取締役社長の鴨林広軌(かもばやしひろき)氏が登壇。「維持管理でのBIM活用 業務視点での最適なシステム群とBIMを統合」と題し、建設、不動産、維持管理分野でのBIM活用とデジタル戦略の今後について提言した。
講演冒頭で鴨林氏は、「今は個人がTikTokで動画を発信すれば、世界中から“いいね”が集まる時代。一方、企業が自社製品の魅力を同じように伝えるのはとても難しい。現実には、モダンな端末やアプリケーションを自在に使いこなしている個人の方がDXが進んでいる」と会場に強い印象を与えた。
鴨林氏は、こうした状況を踏まえ、企業も市販のアプリやクラウドサービスを柔軟に組み合わせ、変化に強い業務基盤を構築する必要があると説く。そしてその設計思想として推奨するのが「アプリ連携型」という考え方だ。
アプリ連携型は、市販のクラウドサービスや業務アプリケーションをAPIでつなぎ、現場に合ったツール群を組み合わせて使うアプローチだ。
バックオフィス領域(経理/人事など)では、既存のSaaSで十分に業務要件を満たすことが多い。一方、建設、維持管理、不動産の業務では、標準的なツールでは対応しきれない業務特化型の要件もある。そのため、必要な機能を開発し、周辺の市販ツールと連携させるシステム設計が求められる。鴨林氏は「目的に応じて最適なツールを選び、シームレスに連携させたシステム群こそが、これからのDXの中核になる」と強調した。
業務全体を一元的に管理するERP(Enterprise Resource Planning)型システムは、建設業界を含め、多くの企業で採用されてきた。しかし、鴨林氏は業務を無理に統合しようとすると、かえって使い勝手を損ねると指摘する。
コンサル会社からも、「Excelが散在している」「属人化している」との声が寄せられ、統合システムの導入に踏み切った企業が複雑で硬直的な運用に陥るケースも少なくない。関係のないシステム同士を無理に接続したことで、設計が煩雑化し、かえって柔軟性を失うことになる。
鴨林氏は「データベースは分割されていても構わない。APIでつなげばいい」と話す。小さなデータベースをAPIで連携させるアプリ連携型の設計思想は、いまや現在のアプリ設計で主流になりつつある。
こうしたトレンドを象徴するのが、ERPの代表的ベンダーSAPと、アプリ連携型SaaSを展開するSalesforceの成長の対比だ。SAPは約20年前、約5000億円だった売上が現在では2.5兆円規模に達している。Salesforceは20年前には存在していなかった新興企業ながら、現在ではSAPを上回る売上水準にある。
しかもSalesforceのサービスは、ERPのように全てを制御するシステムではなく、部分的なシステムを“つなぐ仕組み”で最適化を図る。鴨林氏は「部分が全体を凌駕している。どちらのシステムが将来の優位性を持つかは明らかだ」と持論を述べた。
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