「このシステムにより、BIMに関わるコミュニケーションの在り方も変わります。まず直接的なコミュニケーションについて言えば、従来、要素の進捗は入力者から管理者へ直接伝え、管理者はモデルを閲覧して確認するしかありませんでした」。しかし――と谷口氏は続ける。
システムでの進捗は「進展度」によりモデル上で伝達される。作業が「保留中」なのか「完了」したのかといった個々の判断も、システムの要素で表現。そのため各人の意思を聞くまでもなくモデル上で確認できるし、図面やモデルのチェック状況も図面や会話を介さずモデル上に表現される。人と人の間の伝達はモデル由来のレポートに置き換わり、即時的かつ正確に進捗が把握できるようになるのである。
間接的コミュニケーションの変化に関しては、プロパティのチェック機能がある。従来、プロパティの正解は設計者の頭の中や図面の中にあり、これを人が読み取って解釈しモデル内のパラメータを探してプロパティと照合していたが、システムでは、プロパティの正解を求める規則をらかじめデータとして登録しておき、機械的に照合。
つまり、図面などを経由していた伝達が、モデル上の伝達に置き換わるのだ。修正作業も、これまでは訂正後の正解を用意して、人手でモデルを修正していたが、新システムではチェック時に照合した正解が既に存在する。作業者はモデル上で修正指示を受け取れるし、システム自身が修正作業を自動で行う。
LOD運用にあたっては、部位毎のLOD要件を調べたり、モデル上の対象プロパティを探したりする必要もない。事前登録した要件がモデル上に表示されるので、そこから「いま入力すべきプロパティ」が分かるのだ。もちろん3次元図形情報も同様で、今まで文書で行われていた伝達はモデル上で直接的に行われる。
さらにこうしたプロパティの入力規則やLOD要件には、チームあるいは全社で共有すべき情報が数多く含まれるが、これらも文書化・配布・適用のステップを踏むまでもなく、共有・再利用できるようになる。モデリングのために必要な関係者間でのコミュニケーションの多くがモデル上へと舞台を移し、さらにそれがLODに基づくことで、より効果的に効率的に行えるようになるわけだ。
「LODによる直接的なコミュニケーションについて、もう少し詳細に話しましょう。システムを考える上で、“進展途上の状態”をLODに基づいた“状態値”によって表現しようと考えました」。
谷口氏は具体例として、LOD100から200へ向けて作業する場合、LOD200までに入力作業や確認作業、承認といった段階がある。これを段階的な状態として表現するため、人の意思表示とLODに基づく“状態値”が連動する方法を考案した。作業開始前は全ての状態値を100と設定し、ここに作業者・確認者・承認者の3つの役割を設定する。作業者が作業中の状態値は100のままだが、完了したら〈Good〉を入力して完了を表明。状態値は133となる。
こうして要素が133に進展すると、モデリングは次工程へ進む。この状態値から作業済みと把握した確認者は、妥当かどうかを確認。適切なら〈Good〉で確認済みと入力し、不適切なら〈Bad〉とする。すると、〈Good〉なら状態値は上がり〈Bad〉なら下がる。そして〈Bad〉の場合、要素は差し戻され、作業者が作業をやり直すことになる。確認者の〈Good〉を得て次工程へ進むと、承認者はモデル要素の状態値が確認済と確かめて〈Approve〉を入力。状態値は200に達し、目標LODの達成がモデルからも読み取れるようになる。このようにLODに基づく状態値の使用は、コミュニケーションを潤滑にするだけでなく作業者など各役割のタスクを明確にするのである。
「BIMが膨大な情報を持ったために発生しているコミュニケーション上の問題を解決するために、私たちはBIMモデルとLODの関係を良好にし、LODに基づきながらモデルを介して行うコミュニケーションを志向してきました。そして、潤滑に実行するため、新たなシステムの構築を発想しました。これによりBIMにおけるコミュニケーションの問題が解消され、コミュニケーションがモデルの質を高め、信頼できる情報の獲得が可能になると考えています。作るBIMから使うBIMを目指し、LODに基づいたコミュニケーションを可能にすることでモデルが持つ情報の質を高めるという手法について、理解いただければ幸いです」(谷口氏)。
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