多岐にわたる膨大な情報を内包しているBIMモデル。必要に応じて適切な情報を選び出すことが、BIMモデルを活用するための大前提となる。だが、実際には「どの情報が信じられるか?」を見ただけで判別するのは難しい。しかも、この問題を解決するカギと目される詳細度「LOD」もモデルとの間に大きな断絶がある。そこでLODに基づきながら、BIMモデルを介したコミュニケーション環境を構築しようという新たな取り組みが始まっている。「Autodesk University 2020」で、大林組でデジタル推進室iPDセンターに所属し、全社的なモデリングルール整備などBIM運用の管理業務を行う谷口隆二氏と、応用技術でBIM事業の立ち上げを主導し、親会社のトランスコスモスと共同のシステム開発も含めたBIMトータルサービス「to BIM」をローンチする高木英一氏の発表から、LODを一元的に関係者間で共有する管理システムの全容を紹介する。
「BIMに対する社会的な期待とは、どのようなものでしょうか?」。今回サブスピーカーを務める応用技術の高木英一氏は、そんな問いかけで講演の口火を切った。Society4.0と呼ばれる情報社会が到来した今、誰もが簡単に情報へアクセスするようになり、人と情報が高度に融合する世界も近づきつつある。新しい世界を成り立たせるためにもBIMの必要性が増していると高木氏は指摘する。
すなわち、Digital TwinやSmart City、AI、VRなどがBIMと絡み合うことで、初めてSociety5.0も成立する。まさに建物情報のデジタル化は必須であり「待ったなし」の状況にある。
「2019年10月、大林組と応用技術、トランス・コスモス(応用技術の親会社)は、新たなBIM情報の基盤構築に向けたアライアンスを締結。大林組のBIM運用ノウハウに応用技術の技術開発力、トランス・コスモスによるBPOサービスを組み合わせて、建設業界で共通して使えるプラットフォームを目指しました」(高木氏)。
「モデル(情報)の正しさを管理すること」の重要性に着目した3社は議論を重ね、「モデリング・マネジメント・システム」の構築が必要だと結論付けた。取り組みの背景を説明した高木氏は、メインスピーカーの谷口隆二氏にマイクを譲り、セッション本編が始まった。
谷口氏は、「言い古された言葉ですがBIMはデータベースです。そして、BIMモデルは膨大な情報を抱えられますが、その膨大さは“どの情報を信じて良いか分からない”という問題も生み出しました」と、この問題を深く掘り下げていった。
BIMの登場により、建築情報の伝達媒体は図面からBIMモデルへ転換し、各モデルが蓄える情報量は膨大かつ多岐にわたるものとなった。当然、これを扱うために必要なコミュニケーション量も急増したが、コミュニケーションの在り方は変わらず、結果、多くの現場がコミュニケーション不足に陥った──と谷口氏は問題点に言及。解決の切り札と目されるのが詳細度「LOD(Level of Development)」なのである。
「LODはモデルがどの程度正しく情報を持っているかを示す目安として機能し、BIMモデルに対する思い違いなどを無くすことに大きく貢献します」。しかし、通常LODはモデルから独立して存在し、文書として管理される。モデル作りでも、人がLOD要件を読み取ってモデリングし、モデルの状況を確認しながらLODを記述する形をとる。結果、モデルだけを見てもLODが判断できないという問題が発生する。
「そこで必要になるのがLODに基づきモデルを介して行うコミュニケーションであり、潤滑に実行するためのモデリング・マネジメント・システムです。システムでコミュニケーションの問題を解消してモデルの質を高めることで、信頼できる“使える情報”を獲得できるのです」。
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