私には入学前から修論のテーマとなる1つのアイデアがあった。このアイデアは、FMの経験から導き出したもので、ファシリティを使っているユーザーの満足度は、ファシリティマネジャーのコミュニケーションにも左右されるのではないかという仮説だ。このアイデアの研究計画が許可されたのは、後期になってからだった。
修論は、この連載の第1回で何度か触れているが、大学院の後、インターンをすることが決まっていた英CBXの協力が得られた。CBXもこのテーマには興味を持ってくれ、検証の場として、同社のクライアントの英Xeroxが保有する3つのサイト(事業所)に所属するCBXのファシリティマネジャーと、そのユーザーへのアンケート調査に協力してもらえた(図1)。
同じ会社の中で、3か所というのが科学的手法として重要だった。同じ企業文化を持ち、同じSLA(Service Level Agreement、サービス水準合意)であることが、ほぼ実験として同条件であると見なすことが学校から認められ、それぞれのファシリティマネジャーのコミュニケーション方法と満足度の関係を比較するということで、科学的手法という点をクリアすることができた。
これに国領二郎氏のコミュニケーションモデル(図2)を引用し、「One S to Cがユーザーの寛容を形成し、Interactive S to Cが満足度を向上する。また、Interactive C-to-Cにはユーザーの潜在的な期待が表出する」という仮説を立て、英Xeroxのユーザーへの満足度調査結果とCBXのファシリティマネジャーのコミュニケーション方法との間に、重回帰分析による「有意」を確認し、仮説を検証することができた(図3)。
1年制の修士が、2年制の修士に比較しても楽でなかったのは、この修論研究を後期の別の科目と同時にこなさなければいけないことだった。これだけで、毎週1冊程度の文献を読み、2週間に1回はA4の用紙で3〜4ページ程度のレポートを後期中は出し続けなければいけないのがしんどかった。
修論は、おおむね高評価を得られたが、前述のPeter先生に口頭試問で、「それでお前は日本に帰ったあと何をやるんだ?」と質問され、「いやまだこの後イギリスで研修があって…」としどろもどろになったら、笑いながら容赦なくその分減点された。オランダ流「明るい非妥協」だったのも良い思い出だ。
次回連載では、オランダのFM教育について述べる。
熊谷 比斗史/Hitoshi Kumagai
ファシリテイメント研究所 代表取締役マネージングダイレクター。1986年に富士ゼロックスにソフトウェア開発として入社。1990年に同社のオフィス研究所に異動後は一貫してファシリティマネジメントに携わる。JFMAへの出向やオランダFM大学院、イギリスFMアウトソーシング会社での研修、国内でのFMビジネスを経験する。2007年、イギリス系不動産コンサル会社DTZデベンハム・タイ・レオンに入社。グローバルFM/CREコンサルタントに従事。その後独立し、2012年にファシリテイメント研究所を設立し、今日に至る。ユーザーのイクスピリエンス(感動体験)を創るホスピタリティFMを目指し、CREやワークプレースプロジェクト、FM管理業務からFMのIT分野まで幅広くコンサルティングを提供する。
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