本連載では、ファシリティマネジメント(FM)で感動を与えることを意味する造語「ファシリテイメント」をモットーに掲げるファシリテイメント研究所 代表取締役マネージングダイレクターの熊谷比斗史氏が、ヨーロッパのFM先進国で行われている施策や教育方法などを体験記の形式で振り返る。第5回は、FMの関連システムを一元管理するIWMSに現在起きている変化を紹介する。
IWMS(Integrated Workplace Management System)は、当初は連載の第4回で説明したように、CREM(Corporate Real Estate Management)、CAFM(Computer Aided FM)、CMMS(Computer Managed Maintenance System)、リクエスト管理システムといったFMの関連システムをひとくくりにしたマーケットを指す言葉として使われ始めた。
2004年には、IWMSの市場が確立し、米調査会社Gartnerが、IWMSのマーケットレポートをリリースしていたが、それぞれのシステムが横に拡大した後、現在IWMSはFMに関連する一連の機能(システム)群を指している。
また、2004年ころには、それ以前から、それぞれ異なる、FMソリューションを展開してきた米ARCHIBUS、米IBM Maximo、蘭Planonの各社が、自身の会社を「IWMSベンダー」と呼称した。筆者が、以前にCBXの現場で必要性を感じた「別々であったFM関連システムの連携・統合」が現実化してくのを当時見て、期待感が高揚したことを思い出す。IWMSの各機能は、それぞれ会社によって少しまとめ方が違うが、大部分は図1のような機能を含んでいる。
施設のメンテナンスやサスティナビリティを管理するシステムは、日本ではBMS/BEMSをイメージするかもしれないが、IWMSもBMS/BEMSと連携し、複数拠点の情報をデータベースに集められるため、建物の管理に役立つ。
さらに、日本で関心の高いBIMは、FM関連システムCAFMの3D化に貢献している他、IWMSのスペース管理とアセット・メンテナンス管理のシステムに組み込み、ユーザーインタフェースとして有効活用されている。
ITシステムの一般的な効用には、大別して(1)情報の管理・活用と(2)業務の省力化・効率化の2つがあるが、IWMSは両方を行える機能を搭載している。2つのうち、IWMSで関連するFMシステムを統合化するメリットは、(1)の方が大きい。
IWMSを利用した情報の管理・活用事例としては、連載の第4回で解説した英Xeroxの戦略的な拠点計画の作成がある。英Xeroxのように、戦略的な拠点計画を作るためには、各拠点ごとの、デスクスペースや会議義室などの機能分類ごとの面積、入居部門や在籍人数、賃借料や維持管理費、水光熱費などの運営コストなどのデータが、IWMSのような一元化されたデータベースに蓄積され、ベンチマーク分析する必要がある。
あるいは、中長期も含めた修繕費の実績や今後の投資予測、省エネ度、CO2排出量などのデータをIWMSを用いて統合的に分析しなければならない。IWMSは、上記の分析したデータを日々蓄積し、各企業や各組織のニーズに合わせて、自動で更新していく機能「ダッシュボード」を搭載している。
一方、業務の省力化・効率化という観点で、IWMSを使用して、各業務の課題を抽出し、解消策を講じることができる。例えば、設備メンテナンスの管理では、当日点検すべき設備の位置と点検対象の見える化や点検結果の入力方法が問題になるが、解決策として、IWMSではこれらの作業をシステム化している。筆者は2000年代後半に、設備メンテナンスの管理システムは、日本以上に中国を含めた発展途上国でより使われていることを知った。
2000年代後半、中国では、技能者の育成が市場の急速な発展に追い付かない問題を解消し、作業品質を確保するために、これらのシステムが使われていた。システムを導入する企業の多くは欧米の第2世代・第3世代FMアウトソーシング企業(参照:連載の第2回)だった。
当時既に、作業員はスマホを活用し、点検業務の指示とデータの入力を現場だけで完了していた。
IWMSによる業務の効率化は、不動産管理では、オフィスの賃貸借契約情報を管理し更改日を自動で知らせたり、契約内容の経緯を記録したりもできるし、統合サービス管理では、CBXで見たFMのヘルプデスク業務をサポートする機能もある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.