欧州でのFM関連ITシステムの変遷欧州FM見聞録(4)(1/2 ページ)

本連載では、ファシリティマネジメント(FM)で感動を与えることを意味する造語「ファシリテイメント」をモットーに掲げるファシリテイメント研究所 代表取締役マネージングダイレクターの熊谷比斗史氏が、ヨーロッパのFM先進国で行われている施策や教育方法などを体験記の形式で解説する。第4回は、FMに関連するITシステムの変遷を採り上げる。

» 2020年08月27日 10時00分 公開

欧州のFMの変遷から、将来を読み解く

 これまで3回に渡り、過去20年ほどにわたり欧州で繰り広げられたFMの変遷について、組織論や時々のトピックスを紹介してきた。「欧州FM見聞録」の読者は、各年代でファシリティマネジャーが、施設利用者の利便性と満足度の向上を目的に、時代のトレンドに合わせて、新しい手段や方法論を柔軟に実践してきたことがお分かりいただけただろうか。

 現在、よりエビデンスベースド(データに基づき)で、ワークプレースやファシリティサービスを継続的に改善することが課題になっており、FMは今まで以上にITシステムの活用が求められるようになったことも述べた。そこで、今回改めてFMに関連するITシステムの変遷を振り返り、施設管理で断片的に存在しているデータやシステムをいかに融合させていけばよいかのイメージをつかんでいただければ幸いである。

初期のFM関連システム

 FM業界で最初に出現したシステムはCAFMだと考えている。1990年前半、私がFMの世界に入ったときには既にこの言葉は存在した。つづりから想像できる通り、CADから派生したシステムで、「Computer Aided Design(CAD)」を発展させた「Computer Aided FM(CAFM)」という概念を指す。

1990年代のCAFMのイメージ

 CAFMは、CADで描かれた設備機器や家具などを、それぞれオブジェクトとして扱い、各オブジェクトにひも付けられる情報(機器名、寸法、仕様など)のデータベースとリンクさせる。当時から存在し、今も事業を継続しているCAFMブランドには、米ソフトメーカーARCHIBUSなどがあるが、各社はもともとCADベンダーだった。

 1990年代後半、筆者は総務部で本社のオフィスレイアウトを管理していたが、当時のレイアウトは、各部門の人数に合わせ、マネジャーを端にした島形のレイアウトが主流であり、組織変更のたびにどの机をどこに持っていくか、レイアウト案を描くたびに、足りる足らないを手で数えていたので手間がかかった。

 当時既にCAFMという概念を知っていた筆者は「CAFMがあったら簡単に分かるのに」と思った。このエピソードは少し次元が低いとしても、FMが先行していた欧米では、財務上は資産にはならない備品も含めて管理(インベントリ管理)するのがファシリティマネジャーの務めとされていたので、CAFMは無くてはならない存在だった。

ヨーロッパに渡り見たもの

 筆者が2000年に入学したオランダの大学院にあるFMの修士コースでは、「FMIS(FM Information System)」を扱った授業があった。講義を通じて、FMISは、空調や建築付帯設備など、維持管理を必要とする資産をインベントリ管理のみならず、点検や修繕の記録もマネジメントし、資産台帳と点検記録簿を統合するシステムだと理解した。

 FMISはCAFMとは違う生い立ちで、実は1980年代からあったようだが、筆者は前述の授業ではじめて知った。資産台帳と点検記録簿を統合するシステムは、CMMS(Computer Managed Maintenance System)とも呼称されており、現在は、EAMS(Enterprise Asset Management System)とも呼ばれている。

 2000年の当時、欧米では資産管理ソフトメーカーMaximo(現IBM Maximo)が既に、CMMSのデファクトスタンダードとなっていたが、筆者が修士課程を受けた大学院では、同程度の歴史を有すPlanonというシステムを使ってFMISの内容を説明していた。また、FMISの授業内では、FMISは、設備などモノの管理だけでなく、どこにどういう拠点があるか、所有形態や賃貸借契約の内容などの不動産としての情報や、その拠点はどのような機能スペース(オフィス、会議室、サーバルームなど)を有しているかも管理すると説明していた。

 拠点(不動産)や機能スペースを管理するシステムは、CREM(Corporate Real Estate Management:事業用不動産管理)と呼ばれている。さらに、Planonは、ホスピタリティFMの国オランダ製らしく、会議室へのコーヒー注文のようなリクエストを受ける機能もあり、FMのホスピタリティに興味があった筆者は感銘を受けた記憶がある。

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