本連載では、ファシリティマネジメント(FM)で感動を与えることを意味する造語「ファシリテイメント」をモットーに掲げるファシリテイメント研究所 代表取締役マネージングダイレクターの熊谷比斗史氏が、ヨーロッパのFM先進国で行われている施策や教育方法などを体験記の形式で解説する。第2回は、2000年代中盤から2010年にかけて欧州のFM業界で起きた変化やリーマンショック後に欧州のFMがどう変化したのかを紹介する。
2000年代中盤から2010年にかけて、欧州のFMに2つの大きな変革が起きた。1つは2000年代初頭のITバブル崩壊に端を発し、株主資本主義の隆盛も影響したコスト削減のプレッシャーであった。資本家によるコストカットへの強い要望を背景に、イギリス以外の欧州諸国でもアウトソーシング化の波にはあらがえなかった。アウトソーシング会社も買収・合併が進み、第1世代の会社もより大きな会社に吸収されていった。筆者が研修をしたCBXは大企業に飲み込まれて、一時期の輝きは消え失せ、当時の知人も消息がつかめなくなるほど散り散りになっていった。
この時代に、FMアウトソーシング業界で成功を収めたモデルが、筆者が第3世代と考える“トータルファシリティサービス”である。第2世代は、ある程度コストを削減しつつもプロの管理者としてクライアントの経営に戦略的な付加価値を与えることができていたが、コスト削減には限界があった。
トータルファシリティサービスは、以前から実サービスとして多くの人的リソースを抱えていた企業が、実サービスの業容を広げ、第2世代の管理代行の部分も一括して受注するため、企業のFMに関するコストカットに役立った。このモデルの筆頭は、デンマークのISSという会社で、欧州諸国を中心に地場の実サービス会社を次々に買収して巨大化し、やがて全世界に拠点を配置していった。
少し殺伐とした企業イメージに思えるかもしれないが、ISSは「従業員がハッピーでなければ顧客をハッピーにすることはできない」という理念を掲げているところが欧州企業らしく、カンファレンスで会う彼らはとてもはつらつとして魅力的に見えた。
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