本連載は、「建築関係者のためのFM入門」と題し、日本ファシリティマネジメント協会 専務理事 成田一郎氏が、ファシリティマネジメントに関して多角的な視点から、建築関係者に向けてFMの現在地と未来について明らかにしていく。今回は、ファシリティの現状を知り、CAFMを活用するための術を説いていく。
ファシリティマネジメント(FM)を実践するにあたって、最初になすべきことは、自らのファシリティの現状を知ることである。どこまで詳細に把握するかどうかは別にして、その全体像を把握しなければ、計画や方針は立てられない(図1)。
建築などのハード面のみならず、利用している人の満足度など、ソフト面についても診断・把握し、そのレベルがどのようなものか、ベンチマークすることが必要である。人事戦略を立案するのに、社員数やどのような人物が所属しているのか人事情報を把握しないで、戦略が立てられないのと同様で、FMもファシリティ情報なくしてFM戦略は立てられない。では、どのようなファシリティ関連情報を把握すればよいのか考えてみよう。
所有あるいは使用している不動産(土地・建物)の契約書や関連資料、設計図などの情報が必要であることは想像がつくだろう。建物関連の保管資料をざっと整理するだけでも、図2のような書類一式が揃(そろ)えられる。
さらにFMの観点で言えば、ワークプレース関連の利用面積、人数、関連コストなどなども必須となる。FMを実践するには、「品質」「財務」「供給」の3つの視点からの目標管理が不可欠なことは、連載第1回「ファシリティマネジメント(FM)とは何か」で述べた(図3)。
必要情報もその3つの視点から俯瞰してみよう。品質面では、安全性や環境性能などの各種性能面と利用者満足度のデータなどが重要になる。財務面では、減価償却などに必要な施設資産データ、施設賃料などの維持費、水道光熱費などの運営費、保全のための修繕・改修費などがあたり、供給面では、スペースデータ、ワークプレースのレイアウトデータや家具・什器・備品などのデータ、さらには施設・諸室の利用度データなどが該当する。
そして、日常の運営維持に関する情報としては、使用エネルギーデータ、点検データ、SLA/KPI関連データ、各種週報・月報など。さらには、プロジェクトが動いていればプロジェクト管理関連の情報なども入ってくるため、実に膨大な量のデータが存在する。
FM的にデータを整備するということは、さまざまな意思決定に利用できること、FM業務支援に役立てることが目的だが、建築的に捉えれば、建物の状況と歴史(履歴情報)を分かるようにすることである。建物をつくることに集中してきたBUILT読者の多くの方々にとっては、設計と施工が中心で、竣工後のことなど、考えられないといわれるかもしれない。
しかし、ファシリティマネジャーは、発注者としての業務も大切だが、完成後(竣工後)がまさに本番で、建築的なPDCAでいえば、企画→設計→施工→運営維持→企画……という流れで、スパイラルアップさせていくのが真の役割で、運営維持の段階が時間的には、最も長いことを理解いただきたい。
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