本連載では、ファシリティマネジメント(FM)で感動を与えることを意味する造語「ファシリテイメント」をモットーに掲げるファシリテイメント研究所 代表取締役マネージングダイレクターの熊谷比斗史氏が、ヨーロッパのFM先進国で行われている施策や教育方法などを体験記の形式で解説する。第3回は、2010年代から現在にかけて欧州のFM業界で起きた働き方改革やITの活用を採り上げる。
リーマンショック後、徐々に欧州では景気が回復し始めたが、経済の低迷が原因で発生したオフィスデザイン「New Way of Working」の活用は続き、現在も継続している。2012年頃からは、FMのカンファレンスなどで「Talent War(人材争奪戦)」という言葉が聞かれるようになり、多くの企業が時代にマッチした優秀な人材を確保するために、New Way of Workingを用いた働き方の効果を信じ、各社が採用していった。
しかし、コミュニケーションの円滑化をテーマにしたNew Way of Workは、ITの導入を前提とした新しい働き方であり、多くの会社にとって採り入れることは容易ではなかった。New Way of Workの導入を運営も含めて任されたのがファシリティマネジャーだった。いわゆる“チェンジマネジメント”である。
ファシリティマネジャーは、ワークプレースの設(しつら)えを変えるだけでなく、働き方(ワークスタイル)の改革も同時に行うことが求められるようになった。ファシリティマネジャーがワークスタイルを変化させた事例として、オランダの金融機関Rabobankと電力会社Essentのケースを説明する。
Rabobankは、New Way of Workを導入する前に5年の歳月をかけ、各従業員の働き方を変えられるスピードを7つのタイプで区分。従業員約4000人を対象に、ワークスタイルの変化に早く順応できる人には、New Way of Workを採用したパイロットオフィスの評価を担当させ、時間がかかる人には、それぞれに合わせた新しいワークスタイルに応じられるトレーニングを行った。
Essentは、オランダ全土に点在する12拠点を7拠点に減らすプロジェクトで、社員全員が“変革をリードする人財”になることを目指したワークショップを複数回開いた。プロジェクトをファシリティマネージャーとして推進した筆者の友人は、その後、ワークプレースの刷新にとどまらず、“イノベーション推進マネジャー”という肩書を得て、社内の改革をあらゆる形でリードする役割を担った。彼は、最近社内の改革をプロデュースする会社を立ち上げ、独立している。
加えて、2012年頃からは、これまで会社の財務部門に所属する最高財務責任者(CFO)の下でFMが行われていたが、人事部に属するファシリティマネジャーに多く出会うようになった。働き方の変革に欠かせないIT部門も同じくHRの管轄となり、合わせて従業員向けのサービス「Employee Service」も欧州で浸透し始めた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.