ファシリティの現状を知り、CAFMを活用するためには?いまさら聞けない建築関係者のためのFM入門(6)(2/2 ページ)

» 2020年10月06日 10時00分 公開
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◆FM関連データをデータベース化しよう

 ファシリティマネジャーは、これらの多種多様なデータを、自社にあった分類方法で台帳を整備し、書類の様式なども標準化しておくことが大切である。最近では、これらを紙ベースで整理するというより、Excelなどにデータ化しているだろうが、組織規模にもよるが、できる限りデータベース化することをお勧めしている。

 必要な情報を保管するだけなら紙ベースでもいいが、データの更新や活用にはデータベース化して、FM関連データを見える化や共有化することは、FM業務の合理化・効率化だけではなく、外部や関係者とのコミュニケーションでも大いに役立つ。これらのFM関連データは、近年では、組織内の人事、財務など経営資源データを統合化した「ERP(Enterprise Resource Planning)システム」とも連携されている。

 FM関連データを一元管理するコンピュータによるFM支援システム(ソフトウェア・ツール)の総称を「CAFM(Computer Aided Facility Management)」と呼んでいる。米国では1980年代中頃より利用され、日本では1990年代前半より羽田空港西ターミナルビルなどで採用されてきた(図4)。

図4 FMデータを見える化する「CAFM」の概要

 CAFMというと、「CAD(Computer Aided Design)」が必須という概念もあるが、必ずしもそうではない。CADは設計支援ツールであり、CAFMは先に述べた多様な情報のデータベース化を基本機能としており、CADは状況に応じて後で追加していけばよい。システム構築の際に、初めからデータベース化とともにCAD化を進めるパワーと費用があれば、同時に進めた方が効果的だが、既存建物をCAD化するのに多くの費用を費やすより、手書き図面をスキャンして取り込み、必要に応じてCAD化するというような、まず全体の仕組みを構築することの方を優先するべきである。今の時代は、改修工事などが発生すれば、そのときに図面はCAD化されて提出されるので、逐次充実させていけばよい。

 CAFMの機能は、資産(物件)管理、建物管理、図面管理、設備機器管理、スペース管理、エネルギー管理、長期修繕計画管理、さらにはFM業務管理などがあり、日常業務から、CRE(企業不動産)戦略策定支援、BCP(事業継続計画)支援などにも活用されている。近年ではパッケージソフト化、クラウド化、さらにはシステムやデータベースの構築・更新・保守などのアウトソーシング化も進んでいる。

◆CAFM利用のエピソード2題

 CAFMを導入することの効果について、エピソードを紹介しよう。

<エピソードその1>

 話は、CAFMがまだ一般化していない15年ほど前に遡(さかのぼ)る。ある幼稚園ではCAFMのシステムを構築し、家具類までをデータベース化し、補助金で購入した家具などもすぐ分かるようにしていた。そこの女性の園長はじめ先生方は、CAFMを日常から使いこなしていた。

 ある時、役所の監査が入り、先生方がCAFMのシステムで、家具とその場所などを説明したら、役所の担当者がここまで明確に管理しているのかと感心され、監査もスムーズで、問題なく帰られたとのことであった。

 CAFMというと、技術者や専門家が使用するものという概念があるが、一般のユーザーが日常で自然に使いこなしている好例である。

<エピソードその2>

 もう一つの事例は、先のエピソードと同様の時期に、同規模の大企業A社とB社が合併した。合併プロジェクトでは、建物の統廃合をどのように進めるかの検討を行った。A社はCAFMを既に導入しており、B社は一部導入を試みていたレベルで基本は紙ベースだった。プロジェクトルームには、A社側にはデスクトップPCが数台セッティングされ、B社側にはスチールラックに、全国から取り寄せた図面や台帳が並んでいた。

 統廃合の戦略会議で、A社はCAFMで、その建物の情報を瞬時に出し議論に入れるが、B社は図面や台帳をその都度引っ張り出して必死に調べていた。明らかに情報のスピードと正確さに差があり、会議はA社のペースでどんどん進む。

 その後どのような経過をたどったかは想像にお任せするが、FMの基本であるデータベース化ができていない恐ろしさを垣間見た。総務関係者などにFMの必要性を説くと、「FMはトップダウンなので」という話をよく耳にする。確かにトップダウンは必要であるが、社長が人事部長を任命する時、「あなたは人事情報を把握しなければいけません」と言うだろうか。総務部長や施設部長に、「あなたはファシリティ情報を把握しないといけません」と言うのでもあろうか。“FMが経営である”ことを実感したプロジェクトであった。

 現在は、CAFMを情報システムとして特別に考えるのではなく、既にIoT(Internet of Things)の時代になり、さまざまな機器類や設備がインターネットを介してつながり、スマートフォンなどとリンクして、日常環境のパーソナルコントロール化も進んできている。

 CAFMシステムも、さらに統合化したプラットフォームを持つ「IWMS(Integrated Workplace Management System)」や意思決定システムなどへと進化している。さらに、3次元の建築情報システムである「BIM(Building Information Modeling)」との連携など、さらに発展しており、近年そのスピードは加速している。BIMとFM連携については、次回にご報告したい。

著者Profile

成田 一郎/Ichirou Narita

2011年7月、社団法人日本ファシリティマネジメント推進協会(現:公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会:JFMA)常務理事兼事務局長に就任。2016年6月には日本ファシリティマネジメント協会 専務理事に就任し、現在に至る。

一級建築士。認定ファシリティマネジャー。

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