FMの関連システムを統合するIWMSで起きている変化欧州FM見聞録(5)(2/2 ページ)

» 2020年09月29日 10時00分 公開
前のページへ 1|2       

情報管理と業務効率はIWMSの両輪、また、統合されていることの重要性

 省力化・効率化という観点でも、IWMSによる統合化のメリットがある。IWMSは、メンテナンスの点検業務も、会議室にコーヒーを出すのも、それぞれの作業を「ワークオーダー」として扱い、各作業の進捗管理を一元的にヘルプデスクで行うようにできている。

 ヘルプデスクが対処するワークオーダーは、あらかじめ計画された作業か、リクエストにより突発的に発生した作業かの違いはあるが、やらなければいけないこと「To Do」として、進捗と業務品質を管理するという点では同じである。

 全てのワークオーダーを一元的に管理することで、第3世代のFMアウトソーシング会社のように1人の作業者がさまざまな業務に取り組むことを容易にしている。また、IWMSは、あらかじめ、想定されるワークオーダーをリストアップし、それぞれの、業務の発注にかかる費用が月額サービスの固定金額内なのか、あるいは、都度費用が発生するのかなどを明らかにし、調達・契約情報とも連携して、ベンダーへの請求と支払いの処理も自動化する。

 さらに、これらの各業務プロセス上で蓄積されるデータが前述の情報管理・活用のデータベースとなっていく。もともと、FMのシステムは、情報管理・分析でのニーズから始まったが、データが作られる業務と切り離して、データ収集のみを行うと膨大な手間と時間を要する。情報管理と関連する業務プロセスの省力化・効率化は、必要なデータ量の確保と最新情報を取得するために分けて考えることができない。

FMITによるイノベーション

 第3回で、今FMはIT化によるイノベーションの時代になったと述べた。その要因は(1)イノベーションによる人財不足解消とさらなるコスト削減(2)新しいワークスタイル(New Way of Work)によるワークプレース管理の変化、(3)IoT、AIなどの進化によりITで解決できることの飛躍的な拡大がある。

 IWMSもこの流れを汲(く)んで、大きく変化しつつある。スペース管理の領域では、機能スペースや部門使用スペース面積の更新頻度が数カ月単位の管理から、時間/分単位の稼働率、使用者の管理になり、IoTセンサーを使ったデータ収集が主流になった。メンテナンス管理の領域は、点検データの収集が人手からIoTセンサーに変わり、IWMSに蓄積された膨大なデータをAI解析ツールと連携することで故障診断などができるようになってきている。

 サービス管理の領域では、IoTセンサーによる利用状況の把握で、清掃頻度を弾力的に設定したり、ヘルプデスクの受付が電話からスマートフォンアプリに変わりつつある。サービス管理システムを用いて、想定されるリクエストの予測から「チャットボット(chatbot)」の対話によりワークオーダーを出すまでを自動化することもできる。

 例えば、オフィスにあるコーヒーメーカーにQRコードを貼っておき、、ユーザーがスマホでQRコードを読み込むと、あらかじめ想定されIWMS上に登録された、そのコーヒーマシンに対するユーザーのリクエストを表示し、選択してもらうことで、自動的に特定の作業者にワークオーダーを出すことができる。

図2 QRコードとスマホを使用したユーザーリクエスト受付のイメージ

 サスティナビリティ管理も、IoTセンサーで照度、温湿度、CO2のデータを定常的に収集し、前述の稼働データや利用者の満足度データと合わせて、より効率的な運転管理のデータとして活用できるようになっている。IWMSは、AI解析やchatbotのモジュールは必ずしも実装しているわけではないが、環境情報のデータベースでインタフェースの役割を果たす。

FMは管理からスマートホスピタリティサービスへ

 今回説明したように、IWMSなどFMITツールは、経営情報としての情報管理分析や維持管理業務、ヘルプデスク業務のサポートなど、ファシリティの管理者・サービス実施者のツールとして発展してきている。

 しかし、グローバルで、特に欧州におけるFMの役割は、ホスピタリティやユーザーの利便性と満足度の向上であることを本連載の第1回第2回第3回で述べた。

 前述のITによるイノベーションは、ホスピタリティの分野でもイノベーションを起こしつつある。いわゆる、“スマート”化である。ごく一部の先進的事例ではあるが、ある人が座った箇所だけその人に合わせた温度や照度にすることができたり、無人受付機が顔認証により、対象人物の母国語を想定し、言語を選んで応対したりするなどが、既に実現している。

 上記のようなサービスは、優秀な人材を多く確保すれば人的サービスでも実現可能だったかもしれないが、潤沢な管理予算があるラグジュアリーなファシリティだけしか行えないだろう。こういったサービスが現在、ITイノベーションにより、より多くの人が日常の中で享受できるようになりつつある。

 FMはこれまで、管理やコストダウンで負のスパイラルを担ってきた。しかし、ITイノベーションにより、付加価値創造というスマートホスピタリティサービスとして、正のスパイラルに変革するチャンスが到来している。

図3 FMはITを活用したスマートホスピタリティサービスへ

著者Profile

熊谷 比斗史/Hitoshi Kumagai

ファシリテイメント研究所 代表取締役マネージングダイレクター。1986年に富士ゼロックスにソフトウェア開発として入社。1990年に同社のオフィス研究所に異動後は一貫してファシリティマネジメントに携わる。JFMAへの出向やオランダFM大学院、イギリスFMアウトソーシング会社での研修、国内でのFMビジネスを経験する。2007年、イギリス系不動産コンサル会社DTZデベンハム・タイ・レオンに入社。グローバルFM/CREコンサルタントに従事。その後独立し、2012年にファシリテイメント研究所を設立し、今日に至る。ユーザーのイクスピリエンス(感動体験)を創るホスピタリティFMを目指し、CREやワークプレースプロジェクト、FM管理業務からFMのIT分野まで幅広くコンサルティングを提供する。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.