AI×デジタルツインで進化するインフラ点検 枕木劣化を列車カメラで判定など【土木×AI第36回】“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(36)(3/3 ページ)

» 2025年10月09日 10時00分 公開
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災害復旧や教育への応用

 地震などの災害時には、交通ネットワーク全体の通行可能性を迅速に把握することが欠かせません。その1つの方法として、センサーなどにより、橋梁(きょうりょう)の損傷を遠隔観測することが有効だと考えられます。文献8では、下図のような山間部の橋梁の遠隔観測を想定し、3次元モデルとセンシング情報を組み合わせ、一目で損傷状況を把握できるような可視化を試行しています※8

橋全体の3次元モデル 橋全体の3次元モデル ※8

※8 「橋梁の3次元モデルにIoTセンシング情報を統合したインフラマネジメント向けのプラットフォームに関する検討」井上和真,後藤源太,横山和佳奈,川崎佑磨,小西優真,山元沙貴/AI・データサイエンス論文集6巻2号p258-264/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2025年

 地震時などで損傷が見られる例の多い桁端や支承部分を対象として、3次元モデルと支承の変位の画像データを統合して可視化した例が下図です。

橋台付近の3次元モデル(左)と支承変位の画像データとの統合(右) 橋台付近の3次元モデル(左)と支承変位の画像データとの統合(右) ※8

 このようなデジタルツイン技術を教育へ応用する試みも進んでいます。土木工学初学者に対し、「身近な土木構造物の存在に気付く」「多角的に構造物を観察して理解を深める」「最新技術に触れる」などを目的に3次元スキャンして得られたデジタルツインをVRを用いて観察する教材が提案されています※9

VR空間内の3次元モデルの配置(左)とコンクリート橋を観察している状況(右) ※9

※9 「土木構造物の初学者向け学習教材としてのデジタルツインおよびVR活用効果の検証」渡邊祥庸,金井一蕗,後藤瑛介,萩原伊吹,堀越菜月/AI・データサイエンス論文集6巻1号p208-216/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2025年

 デジタルツインとAIの組み合わせにより、構造物の維持管理や被災時対応の際、検出された損傷や異常などを位置や寸法情報とともに記録することが可能となりつつあります。土木現場で普及すれば、現場業務の効率化や迅速化、さらには人材育成にも大きな効果が期待されます。

著者Profile

阿部 雅人/Masato Abe

ベイシスコンサルティング 研究開発室 チーフリサーチャー。防災科学技術研究所 客員研究員。土木学会 構造工学委員会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会 副委員長を務めた後、現在はAI・データサイエンス実践研究小委員会 副委員長。インフラメンテナンス国民会議 実行委員も兼任。

近著に、「構造物のモニタリング技術」(日本鋼構造協会編/コロナ社)。

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