八潮市で起きた事故を筆頭に、全国で道路陥没が多発しています。国交省ではインフラの維持管理に対し、従来の不具合が起きた後に対処する“事後保全”から、事前の定期点検や修繕で長寿命化を図る“予防保全”への転換を進めています。そこで今回は、道路陥没を未然に防ぐ予防保全を可能にするAIの最新研究を紹介します。
2025年1月、埼玉県八潮市で地中の下水道管が原因とみられる大規模な道路陥没が発生しました。国土交通省は「下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」を設置し、今後の維持管理の在り方が検討されています※1。
全国で急増するインフラ維持管理の問題に対し、AIはどのように貢献できるでしょうか。
※1 国土交通省「下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」
★連載バックナンバー:
本連載では、土木学会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会で副委員長を務める阿部雅人氏が、AIと土木の最新研究をもとに、今後の課題や将来像について考えていきます。
下水道管路の点検では現状、マンホール内に人が入り内部から目視する方法、地上からマンホール内に管口カメラを挿入して点検する方法などが用いられています。下水管には、昭和以前から使われている陶管、昭和初期から使われているコンクリート管、利用が急増している塩化ビニール管など、さまざまな材料が使われています。
文献2では、陶管のクラックを点検画像にセマンティックセグメンテーションを適用することで検出しています※2。下図のように汚れがある場合でも、検出可能と示されています。AI技術で、管路の点検をより効率的かつ高い精度で行えるようになることが期待されます。
陥没に先立って、地中には空洞が形成されると考えられます。そこで、地中の空洞をレーダで検出することも行われています。その場合、下図のような地中レーダ画像から空洞を検出することになりますが、読み取りに熟練を要することから、AIによる物体検知技術の適用も試みられています※3。
※3 「YOLOv7を用いた地中レーダ画像のリアルタイム物体検出」中道一紗,園田潤/AI・データサイエンス論文集4巻3号p909-914/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年
陥没の予兆として地盤が沈下すると思われるため、連載18回で取り上げた「衛星SAR(合成開口レーダ)」による沈下の検知も有望な技術と考えられています※4。
※4 「人工衛星×AIを防災/インフラに活用した最新研究 地盤沈下検出や長期モニタリング【土木×AI第18回】」BUILT
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