国交省は、八潮市の道路陥没事故を受けた下水道管全国調査の結果を公表した。1年以内に対策が必要とされた要対策延長は約75キロで、7カ所で空洞を確認した。
国土交通省は2025年11月5日、老朽化が進む下水道管路の全国特別重点調査の結果を公表した。八潮の道路陥没事故を契機に発足した対策検討委員会の第9回で、最新の9月30日時点の結果が明らかになった。
全国特別重点調査の対象となった「優先実施箇所」は、全国128団体の下水道管路で計約813キロに及ぶ。うち2025年9月末時点で目視調査を約785キロ、打音調査などを約136キロ実施した。
調査の結果、対策が必要な時期に応じて緊急度を「I」と「II」に分類した。緊急度Iの原則1年以内に対策が必要とされた延長は約75キロだった。対象の地方公共団体は、北海道、宮城、埼玉、千葉、神奈川、愛知、大阪、兵庫、福岡など19道府県の流域を含む73団体。
緊急度IIは、応急措置を実施した上で5年以内に対策が必要で、要対策延長は約243キロとしている。
空洞調査では緊急度IとIIを合わせて、7カ所の空洞を発見。うち5カ所では既に空洞箇所の埋め戻しで対策が完了し、残り2カ所は対策中だという。
国交省は下水道事業者と道路管理者が連携し、レーダー探査や貫入試験で調べたことで、路面から深い位置の空洞も把握できたとし、連携調査の有効性を再確認した。
また、硫化水素濃度と腐食の相関関係で、平均硫化水素ガス濃度の高い管の方が、腐食ランクが高い傾向を再確認した。一方、腐食と判断された管渠でも、硫化水素以外の摩耗や風化、中性化などが要因と推察できるケースがあり、今回の調査で下水道管路の劣化に関する複数の知見が得られたという。
化学的弱部(腐食のおそれが大きい箇所)で緊急度Iに判定された事例。硫化水素腐食による石こう化が全面的に進み、部分的に鉄筋が露出 出典:第9回下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会【2025年11月5日】資料
力学的弱部(構造上応力が集中しやすい箇所など)で緊急度Iに判定された事例。コンクリート管の継手部に発生した破損やクラック 出典:第9回下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会【2025年11月5日】資料
地盤的弱部(地下水位が高い箇所や軟弱地盤など)で緊急度Iに判定された事例。クラック箇所などから浸入水が噴出 出典:第9回下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会【2025年11月5日】資料委員会では今後、2つの「メリハリ」と2つの「見える化」による管路マネジメントの転換を全国隅々まで徹底していく。メリハリは、「メリハリの効いた点検や調査」と下水道区域の縮小や分散化による「再構築のメリハリ」。見える化は、診断基準と点検調査結果のデータベース化などの「テクニカルな見える化」に加え、点検結果公表や下水道カルテの公開といった「市民への見える化」。
診断区分も緊急度ではなく、施設の健全性を示す「健全度」として区分を改める方針を打ち出している。新たな「健全度区分」としては、「IV(緊急措置段階)」「III(早期措置段階)」「II(予防保全段階)」「I(健全)」「診断困難」としている。
診断基準の明確化では、これまでのランク付けや管の本数に応じた不良発生率の考え方を廃止し、診断項目ごとに最も異状の程度が著しいもので健全度を直接診断する基準に見直す。
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