「PLATEAU」でも採択、CFDの耐風設計など幅広い建築シミュレーションを可能にするアルテアの製品群数値解析技術で広がる建築手法(3/3 ページ)

» 2022年04月26日 06時27分 公開
[川本鉄馬BUILT]
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多数ソフトを一括利用できるトークン制とクラウド環境

 アルテアの場合、ソフトウェアやソリューションは完全に独立しているわけではない。例えば、S-FRAMEには、アルテアが持つ他のソフトウェアやソリューションをつなぐハブとしての位置付けもある。また、ライセンスに関しても使い勝手の良いユーザー視点のサービス体系となっている。

 それが、製品をひとまとめにパッケージした「Altair Units(アルテア ユニッツ)ライセンスシステム」で、業種や利用者のレベルに分かれている。同じパッケージに分類されたソフトは、ユーザーが保有するトークン(利用ポイント)内で自由に使える。

 建築・土木分野向けのソリューションでは、「AEC」や「AEC-A」。パッケージとしては、“全部入り”の「Enterprise Suite(ENT)」を筆頭に、建築・土木以外に、アナリストや機械設計者などをユーザー対象としたプランもある。

「AltairUnits」の種類。建築・土木の設計向けはAECが相当 提供:アルテアエンジニアリング

 これまで、アルテアのソフトの多くは、ローカル環境のPCにインストールして利用するものが多かった。しかし、クラウド上でソフトを使えるソリューションとして、「AUL-VA(オールバ:Altair Unlimited Virtual Appliance)」が提供されている。

 仮に、大規模解析のような高負荷の処理をするには、当然ながらハードにも高性能ワークステーションなど、高いスペックが求められる。AUL-VAは、GPUが利用可能なクラウド上にソフトを展開し、利用量によって料金を支払う仕組み。クラウド環境の構築もアルテアが行うため、ユーザーは高価なハードを購入することなく、必要な解析を無駄の無いコストで実現できる。

 AUL-VAの場合は、GPUや並列して走らせるクラウドのノード数によって料金が異なる。支払いは、最初に期限4カ月のカードを購入し、カードには利用可能なGPU数や時間などが規定されている。処理を短時間で行うために、多くのGPUやノードを使うのであれば、それに見合うカードを購入することとなる。

 アルテアの営業担当者は、「建設系の計算環境はプロジェクト単体で運用されることが多いので、年間の使用ライセンスよりもAUL-VAの方がフィットしている」と話す。顧客からも「取り組みやすく、投資しやすい」と好評を得ているとのことだ。

建築物の設計から意思決定までをスピード化する流体解析ソフト「ultraFluidX」

 建築の風洞実験とほぼ同じ精度が得られる画期的な数値流体力学(CFD)ツールとして登場し、ここのところ注目を集めているのが、冒頭に述べたアルテアの流体解析ソリューションultraFluidX。

 ultraFluidXが既に複数のゼネコンで利用されているのには理由がある。それは、設計案の作成段階で、大幅な時間短縮ができるからだ。ultraFluidXは、クラウドのAUL-VA上で動かし、強力な演算能力によって、高速にシミュレートする。

 昔からある風洞実験は、CADのデータをもとに実験用の縮小模型を作らなければならなかった。一般的に縮小模型の製作は、外部の業者への委託となり、モデルが完成するまでには1カ月ほどを要する。実験するにも、1方向ずつ行い、最低でも合計36方向分(場合によっては40方向以上)を試さねばならず、膨大な時間や工数が掛かってしまう。

 その点、ultraFluidXであれば、CADの設計データをダイレクトに読み込み、CFDシミュレーションが行える利点がある。クラウドの状況が許せば、複数のGPUやノードを同時に動かすことで、さらなる処理時間の短縮が見込める。建築物を設計する側にとっては、時間の短縮は大きなアドバンテージになることは言うまでもないだろう。前出の営業担当者は、「業界内の競争激化に対して、意匠性の高い設計案を安価かつ短期間で提案したいという潜在的ニーズがあるからこそ、多くの建設業で利用されている」と補足する。

従来の風洞実験を「ultraFluidX」に代替するメリット 提供:アルテアエンジニアリング
クラウド上で動かす「ultraFluidX」で、設計期間とコストが削減 提供:アルテアエンジニアリング

高い精度でシミュレーションする、“格子ボルツマン法”の解析

 業界内で、数値流体解析(CFD)を用いた仮想風洞実験への期待が高まるのに呼応するように、ここ数年で行政や研究機関でも顕著な動きがみられる。建築物の耐風評価に関しては、CFDによるシミュレーションの有効性が認められ、建築基準法が改正された。さらに、ultraFluidXが採用している「格子ボルツマン法」を用いた解析にも、その評価方法に関する研究が始まろうとしている。

 アルテアの営業担当者は、「国土交通省の建築基準整備促進事業では、サンプルの建物を使った検証の論文が多い。2022年9月には、実物件で格子ボルツマン法をultraFluidXによって検証した結果が建築学会で発表される予定」と説明する。

 建築学会で格子ボルツマン法での検証が発表されれば、シミュレーションで採用したultraFluidXにも、熱い視線が注がれることになるはず。「優れた建築設計のシミュレーション技術がさまざまな建築物に広く活用できるように、これからもゼネコンと検証を重ねていきたい」(アルテアの営業担当者)。

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