近年、国内で相次ぐ自然災害の甚大な被害を鑑みると、建物のBCP対策については現状を見つめ直し、将来の在り方を検討すべき時期に来ている。ファシリティマネジメント フォーラム 2021で講演した竹中工務店で事業リスクマネジメントグループ長を務める杉内章浩氏は、BCP/リスク対策の必要性は認識していても実施がなかなか進まない現況を踏まえ、多数の相談を受けている建設会社の立場から参考になる事例を交えつつ、とくにここ数年の懸案事項となっている感染症対策にもスポットを当て、問題解決の具体的な手法を提言した。
日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)は、「ファシリティマネジメント フォーラム 2021(第15回日本ファシリティマネジメント大会、ライブ配信:2021年2月17〜19日/オンデマンド配信:2021年2月22〜3月1日)」を開催した。
本稿では会期中の講演のうち、「近年の災害を踏まえたこれからのBCP対策」と題した竹中工務店 エンジニアリング本部 事業リスクマネジメントグループ長 杉内章浩氏の講演をレポート形式で紹介する。
2016年から国内で起きた自然災害を振り返ると、2016年の熊本地震をはじめ、2017年の大阪府北部地震や7月豪雨などの大規模火災、2019年にも九州北部豪雨や台風15号/19号などで多くの被害が発生。2020年には、今なお終息していない新型コロナウイルス感染症が世界的にまん延した。
こうして改めて見直すと、地震や自然災害、パンデミックは日常と隣り合わせにあり、さまざまな災害リスクに今から備えておくことの重要性が再認識できるだろう。
登壇した杉内氏は、建物の水害対策や感染症対策の具体的な手法について、図表や事例を織り交ぜながら詳細に説明した。最初に触れた水害対策では、その順番として、1.現状把握(水害リスク、施設を取り巻く条件)、2.対策の目標決め、3.対策方法の検討――の3段階に分かれるとした。
まず着手すべきことは、1.水害リスクの現状把握。「例えば、各市区町村が公表しているハザードマップを確認するなどの簡単な情報収集だけでなく、国土交通省や都道府県などの河川管理者が保有する情報も網羅し、危険性の有無を知っておく」(杉内氏)。
地域住民にとっては、有事のときに避難場所となる施設がどこにあるのかを前もって把握しておいた方がいいだろう。加えて、災害によっては停電や下水道の凍結による水不足に陥る可能性もあるので、その対策や地域性も調べておくことも欠かせない。
2.対策の目標決めでは、災害の規模別にリスクを分類し、各リスクに応じた「建物は崩れても良いから命は守る」や「重要書類だけは守る」などといった対策によって達成できる目標を定める。
そして、3.対策方法の検討では、「リスク」と「目標」をどうやって結ぶのかを検討していく。
杉内氏が提示した下の図では、主な浸水対策をイラストで表している。Aは建物を守る方法で、Bは重要なものだけを守る方法。もちろんこれらを複雑に組み合わせた対策もあれば、建物が新築か既築かによっても講じる手段は変わってくる。
また、災害から防ぐだけでなく、貫通配管の浸水対策やその後の復旧のしやすさなど、運用面や施工面での検討も不可欠。仮に防水板で言えば、設置しても浸水時に空間が完全に密閉されるわけではないので注意が必要な点は考慮すべきだし、施工方法についても、シミュレーションした上で有効性を確かめてから取り付けることで、初めて安全性が担保される。
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