将来の防災対策について、杉内氏は竹中工務店の提案も交えながら提示した。
企業の対策には、働く環境の改善やSDGsなどの平時に役立つ対策と、地震や水害など有事に備える対策の2タイプがあり、別々に考えるのではなく、包括的に考えていく姿勢が肝要となる。前者は事業を強化する力、後者はリスクに対応していく対応力がそれぞれ鍛えられ、より強固な企業を形成するのに貢献する。
「とはいえ、災害時の対策は莫大なコストがかかるため、どちらかといえば企業にとって重要度は低く、敬遠されがち。しかし、平時でも役に立ち、利益につながるものと組み合わせていけば、コストを抑えられ、リスクヘッジにもなる。災害が多いこの国だからこそ、この考え方は今後もっと重要になっていくだろう。逆に、災害対策のことばかりを考え過ぎてしまうと、包括的な視点から外れやすくなってしまう」(杉内氏)。
例えば、太陽光発電などさまざまな電力を活用すれば、利益になるだけでなく、有事の助けにもなる。同様に、建物をIoT化するなど多様な働き方ができるオフィスやフレキシブルで市場変化に強い施設を構築しておけば、足元のコロナ禍を考えれば、パンデミックなどの万一という事態でも、迅速かつ柔軟な企業活動を継続することが可能になると容易に想像できる。
その具体的な事例として、杉内が採り上げた千葉県印西市の竹中工務店 技術研究所の改修工事では、新型コロナウイルスまん延の前に竣工したが、結果として、コロナ禍のなかでもフレキシブルな運用を実現でき、スタッフたちも実感した。
同施設では、大学との基礎研究を経て開発した80種類を超える執務行動から自らの働き方を見つめ直し、意識改革を支援するツール「オフィスアクティビティカード」を取り入れている。
その結果、従業員は自席だけでなく、テラスやWeb会議専用部屋、カフェなどでも仕事ができて、さまざまな人とコミュニケーションがとりながら、創造性を育めるワークプレースを構築した。さらに、位置情報が分かる個人用リモコンも配布し、業務環境の見える化を行うだけでなく、有事にアラートを通知したり、密の回避に活用したりしている。
「このように、平時にも有事にも役立つシステムの構築を、絵に描いた餅ではなく実現していくためには、具体的な組織の活動に落とし込んでいく企業の姿勢が問われる。それには、一朝一夕ではなく、長期計画として落とし込んだ施設の再構築が求められる」(杉内氏)。
再構築のケースとしては、多種多様な課題解決と合わせ、約12年をかけて地震対策を実施した工場の例がある。耐震性能以外でも、工場機能の集約、生産性向上、将来の増産に柔軟に対応可能など、多くの設備を備えている。
もう一つは、改修がメーンだったもののBCP対応機能を備えた5カ年計画。リニューアルと同時に、福利厚生を強化した避難スペースの確保や防災トイレの設置、会議室の改修、ライフラインの搭載なども整備した。
講演の最後に、杉内氏は「再構築というフレームワークを利用すれば、長期計画として有事と平時、両方に対応した施設が作れるのではないだろうか。今後は、平時の仕組みが有事にも役立つような取り組みが期待されている。長期スパンで実現していく取り組みとして、当社としては積極的に行っていきたい」とBCP対策の展望を示した。
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