建築事故で損害賠償請求が工事発注者にも及ぶ場合も、リスクを最小限にするには?ファシリティマネジメント フォーラム 2021(1/3 ページ)

建築プロジェクトで昨今、建築偽装問題や事業トラブルなどが頻発していおり、その際にば発注者にも責任とリスクが生じる。リスクを最小にして長期的に損失を減らすには、“プロジェクトマネジメント”が必須となる。ファシリティマネジメント フォーラム 2021の「発注者のための建築プロジェクトマネジメント超入門」と題する講演では、2人の登壇者が弁護士とプロジェクトマネジメント(PM)実務者のそれぞれの立場から、裁判例からみる発注者の責任及びリスクと建築プロジェクトマネジメントの果たす役割を解説した。

» 2021年05月19日 06時06分 公開
[川本鉄馬BUILT]

 Literatus(リテラタス)代表取締役CEO 池村友浩氏と、TMI総合法律事務所 パートナー 富田裕氏は、「ファシリティマネジメント フォーラム 2021(第15回日本ファシリティマネジメント大会、ライブ配信:2021年2月17〜19日/オンデマンド配信:2021年2月22〜3月1日)」にて、「発注者のための建築プロジェクトマネジメント超入門」と題する講演を行った。

 昨今の建築では、コストの削減が大きな関心事になっている。しかし、コストを抑制したために、建築物の品質や安全性が低下したり、作業日程が大幅に遅れたりしまうことが発生する。とくに、高品質かつ安全な建築物を作るには、建築におけるプロジェクトマネジメントが重要とされる。

 また、建築プロジェクトでは、事故の損害賠償が建築の発注者にまで及ぶことがある。本講演では、この危険を避け、建築プロジェクトを成功に導くために発注者が留意すべき事項が説明された。

コスト削減が可能な「分離発注」の問題点

 講演は、建築を専門としていない発注者やプロジェクトマネジメント未経験の建築技術者を対象に展開。講演は2部構成で、プロジェクトマネジメントの技術を身につけるための入り口となるように、平易な言葉と具体例の提示で、建築発注の基礎とプロジェクトマネジメントの役割を解説した。

 まず、TMI総合法律事務所の富田裕氏は、建築事業における発注トラブルの多くが、マネジメント不足に起因しているとした。富田氏は弁護士であり、一級建築士の資格も有する。富田氏は「発注者によるコストダウンと損害」というテーマで、分離発注によって発生する弊害の事例を紹介した。

発注者が分離発注を行ったことで、結果的に大きな損害が発生する場合がある

 建築物の発注は、発注者が元請業者に対して行うのが一般的だ。依頼を受けた元請け業者は、設計・資材の手配・工事・進捗管理などを各業務に特化した複数の下請け業者に卸す。そして、それらをとりまとめ、最終的に建築物を完成させる役割を担う。

 一方で分離発注は、元請業者を介さずに、発注者が多数の下請け業者と直接契約を行うフローを指す。これによって、元請業者に対するコスト削減につながる。

 しかし、分離発注にはいくつかの問題がある。富田氏は、分離発注のデメリットとして以下を挙げた。

  • 分離受注業者の施工管理を誰がやるか
  • 分離受注者の施工計画で問題点のチェックを誰がするのか
  • 作業業者間の情報共有が困難(谷間の問題)

 分離受注業者の施工管理については、建設発注者から委任されたコンストラクション・マネジャーが中立的に全体を調整する「コンストラクション・マネジメント」の管理が必要かもしれない。施工計画の問題点チェックは、施工の手抜きやコストダウンによる品質の低下を見抜く力が欠かせない。情報共有という谷間の問題に関しても同様のことがいえるだろう。

 分離発注では、プロジェクトが進む過程で、コストダウンのために途中から新しい業者を入れるケースもある。工事の発注者が設計者に対して、「指定の業者を使えば安く済む」と押し付ける場面は少なくない。この際に、途中から入った業者と他の下請け業者間で十分な意思疎通ができるのか、領域や工事の調整が十分にできるのかなどに不安が残る。

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