GISや点群などAI発展のカギは“データ利活用” 首都高や阪神高速の事例【土木×AI第6回】“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(6)(2/2 ページ)

» 2021年10月28日 10時00分 公開
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インフラ構造物をサイバー空間に再現する試み

 近年は、社会インフラの維持管理やマネジメントへのデータ利活用も関心を集めています。下図は、多様なデータを統合化し、利活用する枠組みの例です。インフラマネジメントでは、下図の最左列に記されたように多種多様のデータが扱われています。図の右に向かうに連れて、オープンデータなどの外部データを含めて、相互に関連付けながら統合化し、蓄積・管理・活用していく様子が示されています。管理主体ごとに異なるデータ形式や表現に対応しつつ、目的に応じた分析や可視化を行うことで、下図最右列のような各種業務への利用へつなげることができます。

データ利活用基盤アーキテクチャ 出典:※4

※4 「インフラマネジメントにおけるデータサイエンスとその迅速化を支援するデータ利活用基盤」湧田雄基,猪村元,石川雄章共著/AI・データサイエンス論文集1巻J1号p25〜34/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2020年

 首都高速道路では、GISに紐(ひも)づけられた構造物の諸元や図面データ、施工記録、点検・補修記録などの基本情報に、3次元点群データを連携させたインフラプラットフォームを構築しています。それにより、3次元空間での構造物の現況確認、損傷や変状の把握に加え、現況図面の作成や設計・施工に関わるシミュレーションなどを行うことが可能となっています。下図は、点群データによる3次元空間上で、建設機械や点検機材などの現場配置検討のシミュレーションを行っている様子です。

3次元空間上での施工シミュレーション 出典:※5

※5 「インフラデータプラットフォームの活用インフラマネジメントから防災情報システムへ」土橋浩,長田隆信共著/AI・データサイエンス論文集1巻J1号p17〜24/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2020年

 また、阪神高速道路は、現実世界にあるさまざまなデータをロボットやセンサー技術で収集・蓄積し、サイバー空間でAIや大規模データ処理技術を駆使して分析・知識化を行い、人が最適な意思決定を行っていく「サイバーインフラマネジメント」という概念を掲げています※6。そこでは、現実空間にある橋やトンネルといった道路構造物の竣工図や設計計算書から、地盤モデルから構造モデルまで、実物と同じ性質・挙動を示すモデルをサイバー空間に再現する「デジタルツイン」と呼ばれる試みを進めています。下図は、デジタルツインモデルの各部材に、劣化・損傷などの情報を見える化した例です。

点検診断結果の見える化の例 出典:※6

※6 「阪神高速サイバーインフラマネジメントの取り組みと価値創造の可能性」伊佐政晃,茂呂拓実,金治英貞共著/AI・データサイエンス論文集1巻J1号p252〜260/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2020年

 ここ最近は、国内の建設業界でBIM/CIMの進展とも相まって、地図やGISから3次元のモデルへとインフラのデータのプラットフォームは拡張されてきています。将来はプラットフォームの発展に伴って、AIの応用も進化し、DXを牽(けん)引していくことが期待されます。

著者Profile

阿部 雅人/Masato Abe

ベイシスコンサルティング 研究開発室 チーフリサーチャー。防災科学技術研究所 客員研究員。土木学会 構造工学委員会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会 副委員長、インフラメンテナンス国民会議 実行委員を務める。近著に、「構造物のモニタリング技術」(日本鋼構造協会編/コロナ社)がある。

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