このように一般教養として、Reivtの操作などのBIMを教えている大学は少ないが、BIMを研究テーマとして取り組みを始めている大学は徐々に増えつつある。当社では既に、大学での知見を生かすためのアドバイザリー契約や共同研究が必要と捉え、共同研究については、熊本大学の大西康伸准教授と2019年から進めている。2020年5月に「緊急提言:新型コロナ災害をBIMによる業務改革の好機とすべし!」という記事で紹介した「応急仮設住宅の自動設計プログラムの開発」が該当する。
そもそもは、大西准教授が、2016年に起きた熊本地震の復旧活動に参加され、「大地震などの災害時に役立てられる研究はないか」と思われたことが発端だった。当社は、子会社の大和リースとともに、災害時に多くの仮設住宅を供給しており、少しでも早く応急仮設住宅を建てられるような技術を確立したいと思っており、両者の思惑が合致し、3社の共同研究がスタートした。最初は下記のような、配置計画での自動設計ツールから始まったが、今では、敷地測量、数量算出、実施設計などに派生している。企業の持つ実務的なノウハウと大学での先進的な研究が噛(か)み合って、素晴らしい研究成果に結実している。
こうした企業側から実務的なノウハウを提供し、大学側で最先端の研究を行うという産学が融合した展開は、BIMに新しい可能性をもたらすので、他大学での有益な研究に対しても、共同研究の幅を広げてゆきたいと考えている。既にいくつか候補に挙がっていて、年内には複数の大学との共同研究を目指している。
ただ、こういった研究は、教員ごとに興味があることについて深掘りしている形が多く、当該教員の研究室に所属しない限りは、同じ大学でも他の学生は知らない、ということが往々にしてある。最初に紹介した欧米に比ると、実践的な研究が多くはないので、実践活用をベースにした産学連携をさらに加速してゆく必要がある。
2017年のBIM推進室へのリクルート活動時に、BIMに取り組んでいる大学の先生に相談をしたことがある。そのときは、「BIMに取り組んだ学生が就職しても、現実にはBIMに関連する仕事に就くことはあまりない」とか、「BIMを学んだ学生が就職に有利とかは聞いたことがない」と肯定的では無かった。
しかし、2019年度から国土交通省の“建築BIM推進会議”の開催などを機に、多くの企業がBIM活用を加速していることもあり、BIMを学ぶことは就職にも有利に働くようになったのではないだろうか。聞くところによると、とある大学では、以前は意匠系のゼミが人気だったが、今ではむしろBIMのゼミの方が多くの学生が集まっているそうである。
もちろん、BIMの学習だけで就職できるわけではないが、入社した後の成長の進度はかなり違うであろう。
一方で、Revitなどのソフトは若手の人材育成には向かないという方もいる。「BIMモデルでは、ディテールまでは描けないので、ディテールがおろそかになる」とか、「図面表現が画一的になって面白みが足りない」とか、「ファミリの有無やソフトの制限から創造的なデザインには適さない」という意見である。そのような価値観を持っておられる方は、おおかたRevitを使ったことがなく、先入観で話されていることが多い。立体的な建物を立体で創造する方がずっと理解が早いと思う。学生の方々も、本当にBIMに取り組んでいる企業を選択して就職する時期が来たと認識していただきたい。
BIM専門枠で当社に入社した新入社員は、2019年度で5人、2020年度も5人。彼ら計10人は、大学で学んだ知識を生かして、建設デジタル推進部のさまざまな部署で活躍している。建設デジタル推進部では、Revitを使った実務だけでなく、デジタルコンストラクション・デジタルファブリケーション・ロボットの活用といった新たなチャレンジもスタートしているので、幅広い人材を必要としている。
BIM専門枠でなくても、当社はBIMを柱に業務を行うことを標ぼうしている企業である。BIMを志す若者には、ぜひ当社で夢を叶えてもらえれば。ともに新しい時代を創っていこう!
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