では、日本でのBIM教育はどうだろうか?一部の大学では、BIMやデジタルファブリケーションに対する取り組みが既に始まってはいる。
しかし、多くの大学では、BIMの研究どころか、BIMソフトの使い方すらカリキュラムに組み込まれていないのが実情だろう。
大和ハウス工業では2019年1月に、建築系の意匠設計部門に配属した新入社員を対象にBIMの講義を行った。60人近い新人に、「Revitの操作を大学の講義で習った人は手を挙げてください」と言ってみたところ、挙手したのは3人ほどしかいなかった。他のBIMソフトを合わせても10%もおらず、教育の現場での対応の遅れを強く感じた。
当社の意匠設計でBIM活用の件数は、2019年下期(10月〜3月)で60%を越え、2020年上期(4月〜9月)では80%を目指し、2020年下期には完全にBIMへ移行する予定である。このような状況下で入社した新入社員は、まずRevitというBIMソフトを習得しなければならない。
Revitの操作実習では、大学で操作方法を習った新入社員とそうでない新入社員では、当然ながら研修の進み具合が目に見えて違う。Revit以外でも、BIMソフトを多少齧(かじ)ったことのある者であれば、操作の違いに慣れさえすれば研修プログラムは順調に進むが、今まで全くBIMソフトを触ったことがない社員にとっては、RevitなどのBIMソフトの概念すら理解できないので、そこで立ち止まってしまう。悪戦苦闘の末、なんとか研修が終わるころに、BIMソフトの魅力に気付き、或る新人は「こんな便利なものがあるなら、大学の時に覚えて設計に使いたかった」と吐露した。
急速にBIMへ移行している企業が、新社会人を受け入れるさまざまな場面において、現状では教育機関でのフォローが不足していると感じてしまう。RevitなどのBIMソフトを教える講師の不足、BIMという研究分野が確立されていないことに起因すると思うが、企業のニーズに即した教育カリキュラムの整備をいち早く大学側には期待したい。
当社はBIMに積極的に取り組んでいると思われる大学に直接声がけをして、「BIM専門枠」という特別枠で、BIM推進室(現・建設デジタル推進部)の部署に入ることを前提とした独自の採用活動を行っている。
きっかけは、2017年に5人で発足したBIM推進室に、当時の技術部長から、「BIMを全社展開するためには若い力が不可欠だ」と言われ、いきなり5人の新卒枠を指示してもらったことである。新入社員の採用だけで、既存の倍となるスタッフ数になる部署というのは前例がなかったが、当部署は、2017年に募集した新入社員が入社する2019年には、50人を越え、2020年の現時点では、130人に達したことから、技術部長には先見の明があったといえる。
なお、全社でのBIMに対するリクルート活動のために、大和ハウス工業では2017年から「BIMインターンシップ」が始まっている。
BIMインターンシップでは、できるだけ大学では学べないような内容をまだ学生のときに、経験してもらうことを心掛けた。
2017年度のインターンシップ内容について説明しよう。3日間の短い日程の中で、最初にファミリの講習を行った後、ファミリ作成の実習を行う。大学の講義ではRevitの操作方法を学んでいても、ファミリの実作まではカリキュラムに入っていないようである。具体的には、机や椅子のファミリを作って、用意しているRevitデータに配置するといった作業を行う。
次に、Navisworksを使って統合モデルによる干渉チェックを行った。受講者は、大学の授業では、実物件の設備や構造のモデルが入っているRevitの生データを見たことがないので、干渉している部位を宝探しのように探した。Navisworksを使ったことのある学生はいなかったが、操作は簡単なのですぐに慣れ、鉄骨の大梁(おおばり)と配管の干渉などを手際よく見つけ出していった。
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