BIMの技術がどれだけ進歩しても、使うのは「人」である。社内教育も重要だが、BIMを学んだ学生に入社してもらえれば、強力な助っ人になるはず。ところが、日本では海外に比べ、BIMを教えている大学も、手軽にBIMを学べる教育機関も無いという現実から、BIMの学習機会を経験した学生は驚くほど少ない。しかし、徐々にBIMを研究テーマとして扱う大学も出始めており、アカデミックな場でのBIMの議論も進みつつある。大和ハウス工業では、こうした先進的な大学と“産学連携”で手を結び、BIMの可能性を高めるとともに、横のつながりを強めて「人財確保」にもつなげてゆくことを目指している。連載第8回の今回は、海外でのBIM教育などの状況を踏まえ、大和ハウス工業の建設デジタル推進部が、リクルート目的で行っている「BIMインターンシップ」や産学連携について紹介してゆく。
海外では大学などの教育機関でBIMの研究が進み、産学が一体となってBIMの発展に寄与しているのが、もはや当たり前のこととなっている。履修を終えた学生も、BIMに真摯に取り組む企業を選び、水を得た魚のように今まで学んだ経験を遺憾なく発揮している。
研究や人材育成の観点で、大学などの教育機関が果たすべき役割は重要である。今回は、海外でのBIM教育などを参考に、産学一体でBIMを進めることの必要性を考えてみたい。
最初に私が2017年1月に、シンガポールのBIM視察を行った話を例にとろう。シンガポールの建築/建設庁「BCA(Building and Construction Authority)」は、BIM推進の施策の一環で、BIM導入時の補助金制度を設け、BIMに関するトレーニングやBIMを導入するためのハードウェアやソフトウェアの導入費用の支援をしている。
さらに、人材育成の支援策としても、「BCA Academy」を設立して、多様な教育コースを用意し、BIMのプロフェッショナル人財を育てている。BCAアカデミーは、BIMスタジオを備え、そこではBIMプロジェクトのVRやARといった最新技術を体験できる。
また、2020年2月には、スイスのチューリッヒ工科大学を訪れ、実際に学生が受けている講義に参加した。デジタルファブリケーションを対象に、自動車産業と建築業界の違いを論じる授業で、その進歩的な内容にも感心したが、それ以上に学生の熱心さに圧倒された。講師と学生で真剣かつ深淵な議論が繰り広げられ、レベルの高さを実感した。
チューリッヒ工科大学では、デジタルファブリケーションの分野で、実務に直結した研究がされており、大学にある工場の中では、天井から吊(つ)られた6軸ロボットで、さまざまな建設部材を製作していた。大学での研究が、最先端の技術としてそのまま実物件に採り入れられており、このような産学連携がBIMの技術を牽引(けんいん)しているのだと感じた。
アメリカでは、ボストンで、Autodeskの「Boston BUILD Space」というオープンなワークプレースを視察した。この施設では、何をしたいかというテーマを応募し、選考に通ると、Autodeskの全ソフトウェアや施設にあるロボット、各種加工機、3Dプリンタなどの機材を無償で使って、アイデアを具現化する「Residency Program(レジデンシープログラム)」が提供されている。企業や大学などから参加したプロジェクトメンバーが、分野を超えた最新鋭の試みを行っていた。こうしたオープンな場では、これまで接点の無かった技術者同士の交流も生まれる副次的な効果ももたらされる。
海外では、BIMやデジタルファブリケーションに関する研究が行われ、大学や企業も積極的に参画することで、成果を上げている。このように海外ではあらゆる形で、BIMやデジタルファブリケーションを学ぶ機会が設けられており、BIMやデジタルファブリケーションの進展を先導している。
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