ドローンと運航管理システムを世界展開、「低空域経済圏」のプラットフォーマー目指すTerra Droneの挑戦ドローン(2/2 ページ)

» 2025年09月30日 18時00分 公開
[黒岩裕子BUILT]
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点検分野では屋内点検用ドローン開発

 近年は点検領域にも注力している。国内では橋梁(きょうりょう)、トンネル、下水道といった社会インフラの老朽化が進む一方で、担い手の高齢化や人手不足が深刻化している。こうした課題に対応するため、テラドローンはGPSが使用できない閉鎖空間でも飛行可能な屋内点検用ドローン「Terra Xross 1」を開発し、2025年1月発売した。ビジュアルセンサーとLidarを搭載することで、屋内暗所/粉塵環境でも安定した飛行性能を実現。さらに同じ用途の従来機種と比較して3分の1程度の低価格で提供する。

 機体の販売と点検サービスに加え、さらに特別なアタッチメントを搭載し、屋内タンクの腐食/板厚検査を行う「超音波点検」サービスも展開している。一例として、従来2週間程度を要していたプラント内のタンク点検が2〜3日程度で完了。足場が不要になることで大幅な工数削減が可能だという。

「最近も下水道管の点検作業中に死亡事故が発生するなど、危険が伴う点検現場は多い。ドローンで代替することは、安全性の面でも大きな意味がある」と徳重氏は強調する。

 テラドローンはハードウェアに加え、飛行計画作成から測量/点検データ解析までワンストップで行えるプラットフォーム「Terra Cloud」も展開。取得データをクラウドに蓄積し、共有できる仕組みを整えた。ドローンを「飛ばす」だけでなく、データを進捗管理など業務活用に結び付けることで「建設DX」を後押ししている。

UTMによる空のインフラ構築へ

 もう1つの柱であるUTMは、複数事業者のドローンや空飛ぶクルマが同じ空域を飛行する際に、経路や高度を調整して衝突を防ぐ空の交通管制システムだ。ドローンは物流や災害対応、建設資材搬送など幅広い用途での利用が見込まれている。このためドローンによる空域混雑化は今後進む見通しで、UTMは社会実装のために不可欠な基盤だ。既にEUは2023年、全27加盟国のUTM導入義務化を決定。米国では空港周辺の空域で利用が義務化されている。国内でも国土交通省航空局がUTMの導入検討を進めている。

 テラドローンは早くからUTMの将来性に着目し、創業半年後にベルギーの「Unifly(ユニフライ)」へ出資、2023年に子会社化した。この決断について徳重氏は「航空業界出身の創業者が持つ現場の知見に加え、『事故を絶対に起こしてはいけない』という強い安全意識が出資の決め手だった」と説明する。ユニフライは欧米を中心に公的機関とも連携しながら事業を拡大している。また、国内ではテラドローン独自開発のUTMを提供。さらに、2024年3月にはUTMで米国内シェアトップのAloft Technologies(アロフト) に出資し、2025年9月には完全子会社化を発表。

 テラドローングループのUTMは、日本や欧米を中心に世界10カ国で採用されている。UTMは市場の成長性の高さに加え、ライセンス料やフライトごとの従量課金モデルで継続的収益が見込める点も強みだ。

ドローンがもたらす「顧客価値」

 世界のドローン市場では、中国DJI製ドローンが7割のシェアを占めるといわれている。徳重氏は「当社は測量分野でドローン本体の開発には踏み込んでこなかった。後悔もあるが、同時に新たな成長機会ともとらえている。地政学リスクやセキュリティ懸念から代替需要も生まれている」と語り、今後はドローン本体の事業展開も視野に入れていると明かした。

 取材の中で徳重氏が繰り返し口にしたのが「顧客価値」という言葉だ。「優れた新技術でも顧客価値がなければ意味がない。ドローン活用には建設現場の働き方を変えるインパクトがあり現場の『必需品』になる可能性がある」と説明。「生産性や安全性向上に加え、新しい技術に関心の高い若手人材の採用にもつながる」とその価値について語った。

 徳重氏は現在の事業規模について「まだヒヨコのレベル。目標の10%程度だ」と表現し、「日本では発展途上のドローンサービスだが、海外ではフードデリバリーなどで実用化されている地域もある。日本特有の課題もあるが、世界の潮流を見据え、確実に機会を捉えて行きたい」と展望を語った。

 テラドローンは社会の持続可能な発展に向けて、引き続き、ドローンや空飛ぶクルマが飛び交う「低空域経済圏」のグローバルプラットフォーマーを目指していく。

Terra Droneは「低空域経済圏のグローバルプラットフォーマー」を目指す 提供:Terra Drone
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