神代氏が次に紹介した技術は、Webアプリケーション「ちかデジ」だ。スマートフォンやタブレットで掘削現場を動画撮影し、3Dモデルや図面データを自動生成するクラウドサービスである。その特徴を神代氏は「誰でも簡単に掘削状況を3Dで記録/共有できるツールに仕上がっている」と説明する。
2024年の「働き方改革関連法」を受け、建設現場では作業効率や記録精度の向上が求められている。神代氏は「掘削状況の全体把握が困難」「記録と写真の不一致」「出来高管理の手間」など、現場の課題を列挙し、「ちかデジがこれらの課題解決に寄与する」と強調した。
ちかデジのアプリはESRIのGIS基盤で構築され、OSや端末を問わず利用できる。撮影動画をWebにアップロードすると、約15分で概略3Dモデルを生成し、その場で仕上がりの確認が可能だ。翌営業日以降にはPDF形式の3Dモデル、平面/断面図、CADデータ(dxf)、ARデータなどが出力される。国土交通省のNETISにも登録済みで、ビジネスモデル特許も取得している。
生成されたARデータを現地に重ねて表示し、施工後も埋設管の位置などを視覚的に確認できる点も、ちかデジの特徴だ。地上/地下インフラ3Dマップとの連携も可能で、施工前後の情報を一体的に管理できる。GISベースのダッシュボードで成果物や調査履歴も地図と連動して管理可能なため、検索やプレビュー、関係者間の共有にも対応する。
ちかデジは計測精度も高く、国交省の「3次元計測技術を用いた出来形要領(案)」に基づく検証では、ちかデジで生成された座標点の誤差はXYZ軸いずれも±50ミリ以内、最大で−9ミリにとどまった。神代氏は「現場利用に十分な精度」と太鼓判を押す。
掘削状況の3D可視化はKY(危険予知)活動にも活用されており、チームで埋設位置を共有することで、接触リスクの低減や安全意識の向上にもつながる。
既に多くの現場で利用されており、神奈川県藤沢市の辻堂浄化センターで新設配管の竣工記録に使われた他、自治体の電線共同溝工事では、地上/地下の事前調査とちかデジによる記録を組み合わせ、図面への反映の効率化に貢献した。災害現場では液状化や沈下、マンホールの隆起といった被害状況を迅速かつ正確に記録し、GISダッシュボードと連携して一元管理した実績もある。
他社製品ではLiDARなどの専用機器を用いるものもあるが、ちかデジは「スマホで完結」する手軽さがある。撮影から成果物生成、管理までを一元化でき、工期短縮、労働時間の削減、品質向上、現場安全性の強化など、幅広い効果が期待される。
利用にはESRIの「ArcGIS Online」ライセンスが必要。ライセンスは管理者用のCreatorライセンスと、ユーザー用のEditorライセンスの2つがあり、それぞれで扱えるデータの範囲が異なる。成果物は3Dモデルの作成が必須で、その他の成果物は用途に応じて選択可能。納品は、3D/点群データで翌営業日、それ以外は3営業日以内が目安。座標付与やCAD統合などの追加処理はオプションで対応している。
講演最後に神代氏は、インフラ整備や災害対応といった命を守る社会基盤づくりのためには、「地下空間の可視化技術をさらに進化させ、取得した探査データや試掘結果を継続的に蓄積/更新し、関係者間で安全かつ効率的に共有/利活用する仕組みの整備が求められる」との展望を語った。
ジオ・サーチでは、そうした未来に向けて、より使いやすく、より高度なソリューションの開発を継続するとともに、現場の実情に即した支援体制の強化にも取り組んでいく方針だ。
また、神代氏は地下情報の共有に際しては、セキュリティの確保も不可欠とし、「安全かつ正確な情報共有を可能にする環境を整備し、業界全体のDX推進に貢献していく」と力強く宣言し、講演を締め括った。
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