自動車からドローンへ、試作メーカーの「トピア」が大型実機を5カ月で開発Japan Drone 2025(2/2 ページ)

» 2025年06月27日 12時22分 公開
[加藤泰朗BUILT]
前のページへ 1|2       

なぜドローン? カーボン加工技術の新たな可能性

 自動車試作のスペシャリストのトピアが、なぜドローン分野に参入したのか。その背景には、空飛ぶクルマの実用化に向けた市場動向がある。

 現在、新しい空の移動手段となる次世代エアモビリティーや大型ドローンの社会実装の具体的な動きが国内外で活発になっている。人やモノを運ぶための機体の大型化に伴い、使用される構造部材にも必然的に高い剛性と軽量性が求められる。そのニーズは、トピアが得意とする大型カーボン部品の高精度な加工技術との親和性が高い。「ドローンが大型化していくなかで、私たちの強みが生きると感じた」と担当者は振り返る。

 トピアが保有する加圧加熱成形装置(オートクレーブ)は、最大で直径2メートル、長さ5メートル。一般的な加工企業では対応が難しい大型機体の構造部材にも、柔軟に対応できるという。

なぜ試作メーカーがドローン業界に進出したのか。その説明がこのパネルで説明されている なぜ試作メーカーがドローン業界に進出したのか。その説明がこのパネルで説明されている

 驚くべきは、今回展示された実機が、構想からわずか5カ月でフライトに至っていることだ。短期間で製品を形にするスピード感は、試作のリーディングカンパニーとしての強みを物語っている。

構想からわずか5カ月でフライトまでたどり着いた。その開発スピードの速さは、自動車レース分野で激しい競争の中、常に進化が求められる環境で培ってきた技術力の高さがあるからこそ 構想からわずか5カ月でフライトまでたどり着いた。その開発スピードの速さは、自動車レース分野で激しい競争の中、常に進化が求められる環境で培ってきた技術力の高さがあるからこそ

カーボン製プロペラの軽量化と量産性への挑戦

 展示会では、トピアが自社開発したカーボン製プロペラも複数展示した。いずれも高剛性と軽量化を両立した製品で、手に取って振ってみることで、回転時の慣性の違いを体感できる。「プロペラは、モーターの負荷や電力効率に影響を与えるパーツ。軽ければ軽いほど飛行効率が高まる」とブース担当者は開発理由を話す。

 トピアでは、熱硬化性樹脂を使ったオートクレーブ成形に加え、熱可塑性樹脂を用いたプレス成形も行える。両方の成型技術を活用し、量産対応の体制づくりも進めている。「熱硬化性は高性能だが成形時間がかかる。一方、熱可塑性樹脂のプレス成形はサイクルが短く、量産に適している。顧客の多様なニーズに応えられるバランスのよい生産体制の構築を模索しているところだ」と説明する。

展示された3種類のプロペラ。手前の2枚はオートクレーブで、奥の1枚はプレスで成形。一般的には表面塗装で美しく仕上げられることが多いが、トピアではカーボン素材そのものの質感を伝えるため、あえて無塗装で展示。「素材で勝負する」という技術者の矜持が感じられる演出だ 展示された3種類のプロペラ。手前の2枚はオートクレーブで、奥の1枚はプレスで成形。一般的には表面塗装で美しく仕上げられることが多いが、トピアではカーボン素材そのものの質感を伝えるため、あえて無塗装で展示。「素材で勝負する」という技術者の矜持が感じられる演出だ

共同開発と今後の展望、空のものづくりを支える存在へ

 トピアは、カーボンボディーやアームといった構造材を含め、ドローンのあらゆる部品の製造が可能だが、今後は特にプロペラの研究開発に注力する。プロペラは飛行効率や騒音特性といったパフォーマンスに直結する要素が多く、製造には高度なノウハウが求められる分野。「カーボンに強い企業であればボディーはある程度作れるが、プロペラは設計から成形、軽量化、音響特性まで含めて試行錯誤が必要。だからこそ、当社の経験と技術が生きる」と担当者は胸を張る。

 今展のブース構成は、福島県南相馬市の「福島ロボットテストフィールド(RTF)」内に拠点を置くドローン技術研究所との共同出展という形をとった。福島RTFでは、飛行時の音響特性や騒音の研究も行われており、今回出品した機体やプロペラの試験も行った。「将来、ドローンが街中を飛び交うようになるには、騒音問題への対応が不可欠だ。ドローン技術研究所との連携で、より実用的な製品づくりを進めていく」と抱負を語った。

共同出展したドローン技術研究所の紹介パネル。 共同出展したドローン技術研究所の紹介パネル。

 今後は、展示会を契機とした新たな共同開発や引き合いの広がりに期待しつつ、トピアは「空のものづくりを支えるサプライヤー」としてのポジションを確立していく考えだ。

 担当者は「メーカーになるつもりはない。裏方として、ドローンや空飛ぶモビリティーの技術を支える存在でありたい」と口にした。Japan Drone 2025を機に、空への挑戦を本格表明したトピア。試作開発で蓄積してきた技術が、新たなモビリティー社会の基盤を支える日もそう遠くはないだろう。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.