阪神・淡路大震災から30年に考える AIを活用した災害復旧のポテンシャル【土木×AI第30回】“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(30)(2/3 ページ)

» 2025年01月23日 10時00分 公開

衛星の合成開口レーダーで震災後に橋の異常を検知

 地震時に建物の天井に損傷が発生すると、その空間が使えなくなり、公共施設では避難所としての使用にも影響があります。一方、天井自体は建物倒壊への直接的な影響が少ない非構造部材のために応答計測がなされることもなく、これまでは目視による損傷検知が主となっています。

 そこで文献5「Efficient GANによる天井の損傷箇所の検知」では、連載15回で取り上げた画像生成手法の「GAN(Generative adversarial networks:敵対的生成ネットワーク)」を利用し、天井の損傷検出を試みています※5、6。研究ではGANに対する入力画像と生成画像の差分から、異常の有無を検知しています。

無損傷の場合の例。左から入力画像、生成画像、差分画像 無損傷の場合の例。左から入力画像、生成画像、差分画像 出典:※5
模擬損傷として点検口を開けた場合の例。左から入力画像、生成画像、差分画像 模擬損傷として点検口を開けた場合の例。左から入力画像、生成画像、差分画像 出典:※5

※5 「Efficient GANによる天井の損傷箇所の検知」仁田佳宏,福富佑,阿部雅史,鈴木芳隆,中島正愛,西谷章/AI・データサイエンス論文集5巻3号p778-785/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2024年

※6 BUILT “土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(15)いま注目の“AIによる画像生成”技術をインフラ分野へ応用する試み【土木×AI第15回】

 衛星画像も、災害状況を把握するのに適しています。文献7「人工衛星による橋梁の異常検知に関する検討令和6年能登半島地震を事例として」では、衛星搭載の「合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar:SAR)」によって、橋の地震後の異常検知を試行しています。下図左は可視画像で、右がSAR画像になります※7

 震災前後2回のSAR画像の差から変位を算出し、異常な変位の有無を判別して地図上に表示した結果がその下の図です。連載12回でも取り上げたように、SAR画像は夜間や雲があっても撮影可能なところも利点です※8。また、SARは地中の計測も可能なため、災害時の行方不明者捜索手法としての研究も進められています※9

航空写真衛星SAR画像 航空写真(左)と衛星SAR画像(右) 出典:※7
前後の衛星視線方向変位の違い指標の分布 前後の衛星視線方向変位の違い指標の分布 出典:※7

※7 「人工衛星による橋梁の異常検知に関する検討令和6年能登半島地震を事例として」久村孝寛,木下耕介,矢野友貴宏/AI・データサイエンス論文集5巻3号p857-865/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2024年

※8 BUILT “土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(18)人工衛星×AIを防災/インフラに活用した最新研究 地盤沈下検出や長期モニタリング【土木×AI第18回】

※9 「地中レーダと航空機搭載合成開口レーダを 用いた大規模自然災害の行方不明者捜索手法」園田潤,渡邉学,米澤千夏,金澤靖/AI・データサイエンス論文集5巻3号p834-841/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2024年

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