【第12回】「見えないものを見る」AIとセンシング技術の可能性“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(12)(1/2 ページ)

連載第12回は、AIとセンシング技術を組み合わせて、肉眼では見えないインフラ構造物の内部を調べる新たな手法について解説します。

» 2022年05月13日 10時00分 公開

 コンクリート構造物の劣化が進展すると、表面が剥落して思わぬ被害を引き起こすことがあります。過去には、山陽新幹線のトンネルコンクリートが剥がれ落ち、大きな社会問題となりました※1

 特に、コンクリートの内部で劣化が進んでいる場合は、目視点検のみでは把握しきれません。そこで、表面をハンマーでたたいて音を聞く打音検査で内部の劣化を調べるのが一般的ですが、異常音と正常音の聞き分けには、経験や高度な知識が必要です。そのため、AIを用いて構造物内部の状態を調べる研究開発が活発になっています。

※1 「社会基盤メインテナンス工学」土木学会メインテナンス工学連合小委員会/東京大学出版会/2004年

打音検査にAIを用いた浮き判定技術

 文献2「AI手法による打音検査の浮き判定の検討」※2では、下左図のように実際の構造物で録音した打音のデータに対して、下右図に示したような「オートエンコーダー(自己符号化器)」と呼ばれる深層学習を適用しています。

 オートエンコーダーは、入力と出力に同じデータ(この場合は打音の波形)を用いて学習することで、入力と同じ出力を再現する仕組みです。正常音でオートエンコーダーを学習させると、異常音を入力した場合にはオートエンコーダーでは再現されないことが分かりました。その性質を応用することで、良好な打音の判別に成功しています。なお、この研究のプログラムやデータは文献3※3に公開されています。

打音の録音(左)とオートエンコーダー(右)による深層学習 出典:※2

※2 「AI手法による打音検査の浮き判定の検討」江本久雄,馬場那仰,浅野寛元,長瀬大和/AI・データサイエンス論文集1巻J1号p514-521/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2020年

※3 「Data of AI Method on Hammering Sounds at Concrete Bridge」

連載バックナンバー:

“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト

本連載では、土木学会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会で副委員長を務める阿部雅人氏が、AIと土木の最新研究をもとに、今後の課題や将来像について考えていきます。

 また、ハンマーでは無く、レーザを照射して超音波を引き起こすことで、その波形から損傷を検出するセンシングの方法も研究されています。下図左の試験体のように、コンクリートの補修や補強にCFRP(炭素繊維強化プラスチック)シートを貼り付けることがありますが、その際に、うまく接着していない部分があると弱点になります。

 そこで、文献4「深層学習とレーザ超音波可視化試験を用いたCFRP-コンクリート構造の未接着部分の検出」では、レーザで励起された超音波波形のパターンを学習させることで、未接着部分を検出しています。右図の黄四角で囲まれた部分が未接着部分で、その周囲で波形が乱れていることが見て取れます。

CFRPコンクリート(左図)と超音波波形 出典:※4

※4 「深層学習とレーザ超音波可視化試験を用いたCFRP-コンクリート構造の未接着部分の検出」斎藤隆泰,竹田晴彦,廣瀬壮一/AI・データサイエンス論文集2巻J2号p241-250/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2021年

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