鹿島建設は岐阜工業、シンテックと共同で「全自動トンネル覆工コンクリート打設システム」を開発し、西日本高速道路発注の滋賀県大津市で行われている「新名神高速道路 大津大石トンネル工事」に初導入した。新工法により、中流動覆工コンクリートでも全自動による高速打設が可能となり、省力化による生産性および品質の向上を実現したという。
鹿島建設は2023年3月7日、岐阜工業、シンテックと共同で「全自動トンネル覆工コンクリート打設システム」を開発し、西日本高速道路発注の滋賀県大津市で建設工事が進められている「新名神高速道路 大津大石トンネル工事」に初導入したと発表した。
大津大石トンネルは、3車線道路の大断面トンネルであり、覆工コンクリートの打設量は通常の2車線トンネルの約2倍となる約200立方メートル/日。そのため、人力でコンクリート配管を切り替える従来工法の場合は、打設時間が長時間となり、作業員の負荷増大が懸念されていた。
また、地域の生活環境保全の観点から、工事車両の通行時間にも配慮する必要があり、限られた時間の中で品質確保と高速施工を両立しなければならなかった。
鹿島建設では、トンネル工事特有の狭隘(きょうあい)な空間での人力作業の削減と生産性と安全性の向上を目的に、締固めが不要な覆工用高流動コンクリートを自動打設するシステムを2020年に開発。自動打設システムはコンクリートポンプ車の圧送信号と配管の切り替えをリンクさせ、アジテータ車の入れ替え時以外は人の手を全く介さずに、打上がり高さを自動で調整しながら左右均等にトンネル覆工の全断面をコンクリート吹上げ打設する。同年には、静岡県の模擬トンネルで実証を行い、その有用性を確認した。
また、1日あたり200立方メートルの中流動覆工コンクリートの大量かつ高速の打設に対応するため、コンクリートポンプを左右に1台ずつ配置。中流動覆工コンクリートは普通コンクリートに比べて、型枠に作用する圧力が高くなるため、左右均等に打ち上げることが重要な管理項目となる。通常はポンプ2台を用いて左右の独立系統で打設すると、左右の打上がり高さを均等に保つことが難しく、高さ調整によるロスタイムが発生し打設速度が低下することがある。そこで、型枠表面に設置した複数のセンサーでコンクリートの打上がり高さを検知し、各ポンプの吐出量を自動で切替制御する装置を開発したことで、常に左右同じ高さを保ちながら打設することが可能になった。
中流動覆工コンクリートを用いたコンクリート打設での締固めはこれまで、型枠バイブレータの制御を人が操作盤を介して手動で行っていたが、今回は型枠バイブレータを完全自動制御する装置も開発し、人による操作が不要となった。装置はあらかじめ設置した全ての型枠バイブレータを自動制御するもので、稼働のタイミングや持続時間をパターン化して事前に設定することで、コンクリートポンプ2台を連携させた打設制御装置と連動して、コンクリートの打上がり高さに応じて自動で締固めを行う。
新システムの導入により、中流動覆工コンクリートの全自動高速打設が実現し、生産性と品質が向上した。具体的には、自動打設システムを用いて打設した結果、人力による配管切り替えが必要な従来工法と比べ、平均打設速度は約15%早まり、トータル作業人員と打設作業時間を掛け合わせたマンアワー(Man Hour)は約50%低減できると確認した。
従来工法とシステムで打設した覆工コンクリート表層品質を透気係数で比較したところ、システムを用いた覆工コンクリートの透気係数は従来工法に比べて大幅に良好で、ばらつきも小さかった。今回、新たに搭載した型枠バイブレータ完全自動制御装置により、作業員の技量や熟練度に依存せずに、確実かつ均等な締固めを行うことができた結果によるものだという。
今後、鹿島建設は、システムを用いた覆工コンクリートの美観と品質の向上も含めた打設計画の最適化にも取り組み、将来的には型枠の設置からコンクリート打設や養生に至るまで、全ての作業工程を自動化する統合システムの構築を目指す。
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