次に建物において、価格構造メソッドをどのように活用するかを解説する。図2を参照してもらいたい。現在の慣例的比率70:30を価格構造メソッドの比率50:50にするには、利益を移動させる必要がある。この利益がどこの利益であるかと言えば、建設会社の利益である。
移動させるだけの利益が建設会社にあるのか、疑わしく思う人もいるかと思うが、実は国が建物の価格は4割弱が建設会社の利益であることを明確に示している。
利益の移動は難しい話ではない。その根拠としては、建物の固定資産税の計算式を分解することで理解できる。
建物の固定資産税額は、「固定資産税評価額×1.4%」という計算式によって算出される。ここで問題になるのが、固定資産税評価額である。固定資産税評価額は、「市場価格(実勢価格、実際の取引価格)×60%」と計算される。しかし、「なぜ市場価格に60%掛けるのか?」という疑問が生じる。実は、国は40%が建設会社の利益と見なしているため、市場価格に60%を掛けて、調整しているのだ。
ここでは、固定資産税評価額を「市場価格(実勢価格、実際の取引価格)×60%」という簡略的な算式で示しているが、実務では再建築価格方式という方法で計算されることになる。この再建築価格方式で計算することによって、建設会社の利益などが排除され、結果的に「市場価格の60%」となるわけである。この固定資産税評価額が、「適正な時価」(地方税法341条5号)として使用されている。つまり、建設会社の利益を建物附属設備勘定に振り替えれば、建物勘定と建物附属設備勘定の比率を50:50にすることが可能だと分かっていただけるのではなかろうか。
次回は、価格構造メソッドがなぜ憲法上許された方法論なのかを論じる。
土屋 清人/Kiyoto Tsuchiya
千葉商科大学 商経学部 専任講師。千葉商科大学大学院 商学研究科 兼担。千葉商科大学会計大学院 兼担。博士(政策研究)。
租税訴訟で納税者の権利を守ることを目的とした、日弁連や東京三会らによって構成される租税訴訟学会では、常任理事を務める。これまでに「企業会計」「税務弘報」といった論文を多数作成しており、「建物の架空資産と工事内訳書との関連性」という論文では日本経営管理協会 協会賞を受賞。
主な著書は、「持続可能な建物価格戦略」(2020/中央経済社)、「建物の一部除却会計論」(2015/中央経済社)、「地震リスク対策 建物の耐震改修・除却法」(2009/共著・中央経済社)など。
★連載バックナンバー:
『建物の大規模修繕工事に対応できない会計学と税法』
■第5回:「建設会社の役割とは、顧客に快楽を与えることである」
■第4回:「なぜ減価償却の減少が、大修繕工事の資金準備を妨げるのか?」
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