しかし、どんなに研修を開催しても、現実的な話として、全員を何度も呼べるわけではない。研修の予習・復習のためにも、当初からeラーニングを用意し、自分の学びたいタイミングで研修を受けることができるフォローアップの制度を敷いていた。このeラーニングが、新型コロナウイルスで集合研修が利用不可能な状況で期せずして役立っている。
eラーニングの内容は、下図のように設備を除き、2020年10月現在で241本の動画を準備している。動画自体は2〜3分のものから、90分越えるものまで、豊富なコンテンツを揃(そろ)える。トレーニングマニュアルを見ながら、eラーニングを受講することで、いつでもどこでも、自分が必要とする研修を受けることができるわけだ。
BIM移行が決まった当初から、協力会社が入っていないことが課題として挙がっていた。そこで2017年に、これまで付き合いのあった協力会社に、BIM移行を伝え、共に移行を進めてくれる企業を募った。また、新規の企業であっても、当社の取り組みに賛同してもらえる企業には、力を貸してもらえるように依頼した。
当社のBIM標準についても、当社の業務のみに使うことを約束していただいた上で、無償貸与し、教育でも社員が受けるものと同様の内容を無償提供した。こうして2020年上期には、下図内のA〜Uの21社が協力会社として業務を受けている。
また、海外の子会社では、比較的規模の小さな物件を数多く依頼し、国内の協力会社には複雑で大規模な物件を依頼する場合が多い傾向にある。これらの企業は、BIM 360のワークシェアリング機能を使って、作業することが多く、進捗状況の管理などもしやすい。当社は基本的に、Revitによる設計作業が自らできるようになることを前提としているが、実施設計では、協力会社に依頼することが実際には多く、ともに移行を進めなければ、BIM移行は実現に至らない。
AutoCADによる設計作業から、Revitによる設計作業に移行した場合、作業期間や作業コストが上がると言われている。しかし当社での社員の残業時間と設計外注費を調査した結果、BIM移行を始める2017年から、徐々に下がっている傾向がみられた。今後、さらに教育を徹底し、BIM習熟度が上がれば、さらに生産性を上げることができると考えられる。
またISO19650の適用などのプロセス改革により、さらに大きな効果を得られると考えている。
これまでこの連載で、「後追いBIM」では意味がないことを再三にわたり説いてきた。BIMの取り組みから、BIMで設計コストが高くなるという話は、実は「後追いBIMの結果、BIM外注費用が必要になる」ということを指すこととも置き換えられる。
新しい技術に変わることは、口で言うよりも困難を極める。手書きから2次元CADに変わったときは、ツールが変わったにすぎないが、BIMに変わることはプロセス改革を意味するからだ。ただ、それを乗り越えてこそ、本当の意味での業務改革と言えるのである。
伊藤 久晴/Hisaharu Ito
大和ハウス工業 技術統括本部 建設デジタル推進部(旧・BIM推進部) シニアマネージャー(2020年9月現在)。2006年にオートデスクのセミナーでRevitの紹介をし、2007年RUG(Revit User Group Japan)の初代会長となって以来、BIMに目覚める。2011年RUG会長を辞して、大和ハウス工業内でBIMの啓蒙・普及に努め、“全社BIM移行”を進めている。「BIMはツールではなく、プロセスであり、建設業界に革命を起こすもの」が持論。
近著に「Autodesk Revit公式トレーニングガイド」(2014/日経BP)。
★連載バックナンバー:
『BIMで建設業界に革命を!〜10兆円企業を目指す大和ハウス工業のメソッドに学ぶ』
■第11回:「設計BIM全社移行を実現する社内教育の秘訣」(BIM導入期編)
■第10回:「“設計BIM全社移行”を実現する社内教育の秘訣」(BIM啓蒙期・後編)
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