建設会社の社会的責任を考えるとき、ステークホルダーの期待に配慮することが、ISO/SR国内委員会監修の『ISO26000:2010 社会的責任に関する手引』※1に明記されている。建設会社の大切なステークホルダーとは、すなわち顧客であろう。つまり、建設会社は顧客の期待に配慮する必要がある。ステークホルダーの期待とは、ステークホルダーの価値観から発生するものだ。
※1 日本規格協会「ISO26000(社会的責任)」
顧客が建物を事業に使用している場合、大規模修繕工事を実行すると、建設会社が作成した契約書などが原因で、税務申告において不必要な税金を支払うことになることは、幾度も述べてきた。顧客は、基本的に無駄な税金など支払たくないはずだ。そう考えると、建設会社はステークホルダーである顧客に対して社会的責任を果たしていないことになる。
この問題を解決するために建設会社は、何ができるのか?それは、建物の価格構造を変える「価格構造メソッド」によって、顧客の無駄な税金を減少させることだ。この価格構造メソッドについての詳細は、次回に論じることにするが、端的に言えば、価格構造メソッドを使用することで、建物を早期償却することを促進でき、減価償却費の累計額が多くなる。減価償却累計額が増額することは、つまり内部留保が大きくなることを意味する。その内部留保を大規模修繕工事の資金に充当することにより、持続可能な建物の維持が実現する。もちろん、税金を減少させることにも連動する。
持続可能な社会形成には、大規模修繕工事は必要不可欠だ。大規模修繕工事を実施するためには、もし一部除却のスキルがなければ、価格構造メソッドしかないと筆者は考える。さもなければ、建物を購入した顧客がツケを払うことになってしまう。
土屋 清人/Kiyoto Tsuchiya
千葉商科大学 商経学部 専任講師。千葉商科大学大学院 商学研究科 兼担。千葉商科大学会計大学院 兼担。博士(政策研究)。
租税訴訟で納税者の権利を守ることを目的とした、日弁連や東京三会らによって構成される租税訴訟学会では、常任理事を務める。これまでに「企業会計」「税務弘報」といった論文を多数作成しており、「建物の架空資産と工事内訳書との関連性」という論文では日本経営管理協会 協会賞を受賞。
主な著書は、「持続可能な建物価格戦略」(2020/中央経済社)、「建物の一部除却会計論」(2015/中央経済社)、「地震リスク対策 建物の耐震改修・除却法」(2009/共著・中央経済社)など。
★連載バックナンバー:
『建物の大規模修繕工事に対応できない会計学と税法』
■第3回:「大規模修繕工事が建物の迅速な減価償却を難しくする理由」
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