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» 2020年08月06日 10時00分 公開

建物の大規模修繕工事に対応できない会計学と税法(2):【第2回】大規模修繕工事で“一部除却”が難しい理由 (1/2)

本連載では、建物の大規模修繕工事で生じる会計学や税法上の問題点やその解決策を千葉商科大学 専任講師 土屋清人氏(租税訴訟学会 常任理事)が分かりやすくレクチャーする。第2回は、大規模修繕工事で会計処理の一部除却を行うことが困難な理由を明らかにする。

[土屋清人(千葉商科大学 商経学部 専任講師/租税訴訟学会 常任理事),BUILT]

 前回は、大規模修繕工事を適正に会計処理するためには、減価償却だけでは対応できない点に触れ、一部除却の必要性について言及した。今回は、一部除却という会計処理が、なぜできないのかを工事内訳書の視点から考察する。

 はじめに立場によって、工事内訳書の意義そのものが異なる点を確認し、そのうえでエビデンスとして工事内訳書には問題性がある点を指摘したい。

工事内訳書に対する価値観のズレ

 建設会社にとって工事内訳書の総額は重要である。なぜならば、工事内訳書の総額が建設会社の売上高を意味するからである。

 一方、クライアントは、工事内訳書の明細を必要としている。明細に基づき会計処理を行うことで、税金を抑えられるためだ。従って、クライアントにとっては、工事内訳書は、詳細で分かりやすいものがありがたい。しかしこのような工事内訳書の作成は、建設会社にとって煩雑な手間となる。

エビデンスとして工事内訳書の問題点

 会計学者として世界的に著名で、若くして亡くなられた岩田巌教授(一橋大学)は、著書「利潤計算原理」(1994/同文館出版)の中で「会計は、結果と原因を対照せしめて、財務変動の顛末(てんまつ)を表示するものであるから、財産変動の記録に、誤記、誤算、脱漏、省略があってはならない」と明記している。

 大規模修繕工事で工種別内訳書を基に会計処理を行うことは、省略されたエビデンスをベースに会計処理を行うことと同義であり、これは会計上重大な問題となる。ここからはなぜ、工種別内訳書に問題があるか論じる。

省略された工事内訳書

 BUILTの読者は、建築関係の方がほとんどなので、今さら工種別内訳書に関して説明するまでもないであろう。そこで「工種別内訳書の例示」のみ図表1に掲載する。

「工種別内訳書の例示」(図表1) 出典:「持続可能な建物価格戦略」p153(2020/中央経済社)

 それでは、大規模修繕工事の際には、工事内訳書は、工種別内訳書で良いのか?答えは、NOである。大規模修繕工事には、改修工事内訳書というものがある。「改修工事の工事内訳書の例示」を図表2に示す。

「改修工事の工事内訳書の例示」(図表2) 出典:「持続可能な建物価格戦略」p153(2020/中央経済社)

 グレーの部分は、1.防水改修工事、2.外壁改修工事、3.建具改修工事、4.内装改修工事、5.塗装改修工事、6.耐震改修工事が改修工事の対象となる。特筆すべき点は、それぞれの改修工事には、必ず撤去工事がはじめに記載され、その工事金額が明記されている点である。つまり、改修工事は、工程として「撤去(除去)工事→改修(加算)工事」という順番がある訳だ。

 改修工事は、旧部位を撤去(除去)したのち、改修工事(新しい部位にする)を行う工事といえる。この撤去とは、旧部位を撤去するための費用である。だから、理論的に考えれば、撤去した対象物は、資産として計上されている建物などの一部分に相当することは自明の理である。

 しかし、この改修工事の内訳書の存在は、会計処理を行う税理士や公認会計士、経理担当者(以下、会計人)には、ほとんど知られていない。一般的には、大規模修繕工事でも、工種別内訳書が使用されているのが現実である。図表1のような工種別内訳書では、撤去費もそれぞれの工種別の中に含めて計上されていることになる。

 つまり、エビデンスにおいて撤去工事が省略されていることを意味する。これは、上記に見た岩田理論から考察すると、工種別内訳書は、もはやエビデンスとは呼べない。

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