広がりを見せる不動産テック市場ですが、不動産業界のDXが浸透しているとはまだ言い切れない状況です。そこには、不動産業界の特殊性があると考えています。
不動産会社は全国で12万店以上と、実は全国のコンビニの数(約5万店)よりも多く、その80%以上が従業員数5人以下と少数精鋭の会社がほとんどです。また、売り主/貸し主側の不動産会社(不動産管理会社)と買主/借主側の不動産会社(不動産仲介会社)など1つの契約で複数社が関わることが多いため、1社だけがITツールを導入・運用していても、やりとりが成立しにくいのです。
とくに入居申し込み業務では、不動産管理会社・不動産仲介会社どちらもITツールを活用できることが今では必須となっているため、不動産テック企業は双方への運用サポートに取り組んでいます。アットホームでも、不動産管理会社・仲介会社双方へのフォロー体制をしっかりと整えており、運用開始時の操作説明はもちろん、運用する中で疑問点が生じた場合にすぐに問い合わせできる窓口も設置しています。
新型コロナウイルス感染症の流行により、不動産業界では非対面・非接触での住まい探しニーズが増加しています。
アットホームが全国の不動産会社を対象に実施した調査では、「オンラインでの契約のニーズが特に増えた(東京都)」「来店を敬遠している感じがあり、現在LINEや電話で対応している(愛知県)」「内覧をせずに写真などで成約する方が増加した(北海道)」など、住まい探しから不動産会社とのやりとり、契約までをできるだけオンラインで行っている様子がうかがえました。
今後、非対面・非接触でのコミュニケーションが実現できる不動産テックが業界のインフラとなり、オンラインでの住まい探しが当たり前の時代になると考えています。
また、withコロナ時代において消費者はインターネットでたくさんの物件を比較・検討・絞り込みをするようになり、不動産会社は消費者に選ばれるために、物件の基本情報はもちろん豊富な室内・外観画像や周辺環境の情報など、不動産会社だからこそ知っている情報をインターネット上でできるだけ多く提供することが求められます。
接客では不動産のプロとして、ハザード情報や住み方のイメージなどインターネットで調べられる以上の情報提供が必須となり、今後は不動産調査データを提供したり、顧客マッチングや接客に不動産テックを導入するケースも増加すると予想されます。
不動産テックは、不動産会社の業務効率化を実現するだけではなく、新型コロナウイルス感染症により生まれた新たな消費者のニーズに対応するための必需品になってくるのではないでしょうか。
さらに、業務をオンライン化する不動産テックが不動産業界全体に浸透していくことで、今まで紙・Fax中心だった不動産業務の進め方や在り方も大きく変わり、よりよい住まい探しの体験が提供できるようになるでしょう。そして、ゆくゆくは不動産業界のイメージアップや不動産業界で働きたいという人材の確保につながると考えています。
では、不動産テックによるDXの次は、不動産業界に何が起こるのでしょうか。私たちは、「あらゆるものが“見える化”される」と考えています。具体的には、物件価値を的確に算出するテックの登場です。DX実現により、不動産会社は今まで以上にプロフェッショナルとしての情報提供が求められるようになりました。
一方で、物件価値においては、不動産会社の経験や市場の状況などから総合的・相対的に判断することが多く、まだ判定基準が曖昧と言わざるを得ません。しかし、消費者の行動履歴やニーズ、物件の需給関係、周辺物件の状況や価格などを可視化するテックが開発されることで、不動産の価値における「客観的な指標」が確立されると考えています。
的確な物件価値算出が可能になれば、その透明性と信頼性が高まり、安全・安心のある市場へと成熟します。そして、投資家や不動産会社などのプレイヤーが増え、不動産市場の活性化につながるのではないでしょうか。
不動産テックは、今、不動産会社の働き方を変え、ユーザーの住まいの探し方を変えてきています。今後、データの“見える化”により、便利かつ安心安全な住まい探しや取引、市場の活性化を実現していくと考えています。アットホームでも、多様化するニーズや変化する状況に対応し、不動産会社をサポートするサービスの提供を通して、不動産業界の活性化に寄与してまいります。
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