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» 2020年07月14日 10時00分 公開

急成長を遂げる不動産テック市場の行方(1):【新連載】「不動産テック市場の行方」不動産業界のDXは35年前から始まった―― (1/2)

近年、急成長を遂げる“不動産テック市場”。非対面・非接触での営業や契約締結、VRでの物件内見、スマートロックなどの新しい不動産テックサービスが次々と登場し、不動産業界にもデジタル変革の波が押し寄せている。本連載では、不動産テック市場を俯瞰的に見ながら、延期が決定した東京五輪の影響やCOVID-19で意図せず普及が進む“リモートワーク”に伴う市場変化などを織り交ぜ、足元の不動産テック市場の現況と今後の見通しをアットホーム 原雅史氏がレポートしていく。連載第1回では、不動産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)が約35年前から始まっていると言われていることを踏まえ、戦後を出発点にした不動産業界のDXがこれまでどのように発展してきたかを振り返る。

[原雅史(アットホーム 基幹サービス部 部長),BUILT]

■戦後〜1960年代の日本における不動産業界とその仕組み

 第二次世界大戦後、住宅不足が深刻な状態となり、土地や建物のあっせんや取引が盛んになったことから、1950年に建築基準法、1952年に宅地建物取引業法(以下、宅建業法)が制定されました。日本における不動産業界の始動を宅建業法の成立から捉えることも多いため、本連載ではまず、この時代からの不動産業界におけるDXの流れを見ていきたいと思います。

 宅建業法が制定され、本格始動した不動産業界ですが、当時の不動産会社では自社の取扱い物件をメインに取引しており、物件情報を文字だけで記載したチラシを店頭に貼り出していました。その他、住まいを探す消費者には、新聞の3行広告、不動産会社間では寄り合いや親睦会などでの口頭伝達(いわゆる口コミ)などが、情報流通の中心でした。

 そのため、住まいを探す消費者は、何軒もの不動産会社を回らなければ、希望する物件情報を得ることができず、負担が掛かっていました。また、不動産会社が保有する物件情報には限りがあり、せっかく住まいを探す人が来店しても、希望の物件情報が提供できないためなかなか契約につながらない、ということも多かったようです。

 そんな状況を解消したのが、一つの不動産取引において複数の不動産会社が共同で仲介する仕組み「共同仲介」です。この共同仲介は、貸主・売主から、入居者・購入者探しを依頼された不動産会社と、借主・買主から住まい探しを依頼された不動産会社が協力して一つの物件を仲介します。

 この仕組みと、共同仲介に必要不可欠な不動産会社間が物件情報を共有できる独自の不動産情報ネットワークを構築したのが、1967年に創業したアットホームの前身である「ヨコハマ物件配布センター」でした。アットホームは、不動産会社による情報ネットワークを作り、それぞれが持つ物件情報を共有する独自の不動産情報ネットワークを確立。これにより、不動産会社は、他社の物件情報を取り扱うことができるようになったのです。また、消費者にとっては、不動産会社を1社訪れれば、豊富な物件情報を得ることができるため、効率的で快適な住まい探しが可能になりました。

1960年代後半の風景

 当時の情報ネットワークの基盤は、“図面配布サービス”でした。アットホームをはじめ、続々と図面配布サービス会社が誕生していきました。

 図面配布サービスは、不動産会社が物件情報を1枚のシートに集約した物件図面を作成し、図面配布サービス会社に依頼すると、希望する地域の不動産会社に配られ、そこから「物件を紹介してほしい」という問い合わせが不動産会社に集まるという仕組みです。物件情報を図面化することで、物件を管理する不動産会社が、「見やすい」「分かりやすい」「平準化された」情報を消費者側の不動産会社や住まいを探す消費者へ提供することが実現します。

 また、不動産会社にとっては、集客を図面配布サービス会社が担うことで業務効率がアップし、接客や物件管理などのコア業務に専念することが可能になりました。アットホームでは、図面配布サービスを「ファクトシート・リスティング・サービス」として、現在でも全国3万7000店以上の不動産会社に提供しています。

ファクトシート(物件図面)
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