そのような状況になりつつあるからこそ、これからの時代、建設DXは必要不可欠だと考えています。建設DXは単なるIT化が目的ではなく、今までよりも少ない工数でより多くの成果を生み出すための「方法論(How to)」です。
「How to」こそが職人不足の状況では必須の役割を担います。実際に、建設用3Dプリンタは全国200件以上の現場で活用が進められていますが、その現場の多くで従来と比べ3割から9割もの工期短縮が実現しています。それに伴い、現場作業工数も少なくとも3割以上削減されています。
この効果は、国土交通省が主導する2040年に向けた効率化や生産性向上を目指す「i-Construction 2.0」で掲げている「2040年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割(30%)進め、生産性を1.5倍に向上させる」という目標設定にも応えるものです。
新たな技術導入や人手で行っていた仕事を機械に置き換えることで、これまでにないコストが発生するため、従来工法と比較すると建設DXは導入コストが高いといわれることが多々あります。
特に公共工事は財源が国民や市民からの税金で賄われているため、発注者はコストに非常にシビアです。そのため、施工会社も入札価格を上げにくく、新技術を積極的に導入するほどに、利益を圧迫してしまうのが現状です。
だからといって建設DXを使用しないという選択肢は、もはや現実的ではありません。「高くても新技術を導入する」という環境を構築しない限り、職人不足の根本的な解決には至りません。
コストが「高いか安いか」の単純な物差しだけではなく、新たなコストを掛けることで「いかに工期が短縮できたか」「どれだけ少ない人数で実施できたか」という複数の視点から考える必要があります。
イメージしやすいようにPCを例に挙げてみます。今や仕事をする上でなくてはならない機器ですが、価格だけを見ればメモは紙とペン、計算は電卓やそろばんの方が安価です。しかし、圧倒的な生産性と利便性の高さを考慮すれば、PCを使わないという選択肢は考えられないでしょう。
同じように建設DXでも、「金額」という単一の判断軸から脱却し、「生産性」と「利便性の観点を加えた判断をしていく必要があります。そのためには十分な予算の確保も必須です。原資が十分に無いままでは、発注者側が建設DXによる生産性向上を認めたとしても、限られた予算の中から捻出せざるを得ず、十分な費用対効果が得られません。そもそもコスト増の反動で、年間に実施できる工事量自体が減少してしまう恐れもあります。
こうした状況は一事業者が単独で訴えても変わりません。産官学が連携し、今後の建設業を考える上で、十分な予算措置が重要だということを改めて共有し、各方面から提案する必要があります。
もちろん、施工単価そのものが増加傾向にあるため、将来は下図のような建設DX技術の導入費用と均衡、もしくは導入費用の方が安価になる可能性はあります。しかし、それまでの間に、職人が確保できず工事が滞ってしまう“X day”が訪れないとは誰も保証できません。
猶予のある今のうちに建設DXを「特別なもの」「珍しいもの」から、「当たり前のもの」に変えられるように、建設用3DプリンタをはじめとするDX技術の積極的な活用と、導入で不可欠な予算確保に、業界全体で取り組む必要があります。“X day”の到来を回避し、持続可能なインフラ整備を実現するためにも、今こそ抜本的な変革を推進していくべきではないでしょうか。
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