新卒採用では、日本のどのエリアにどれだけの学生がいるかを把握し、それに応じた採用計画を立てなければならない。建築/土木の学科がある大学は全国に存在するが、学生が大学の所在地で就職するとは限らない。出身地で就職を希望する学生がいる一方、勤務地よりも、学んできたことを生かしたいという仕事内容を重視する学生もいる。
全国にある建築/土木の大学1学年を合計すると約3万人。このうち、土木は約5000人しかいない。さらに約5000人のうち約1000人は公務員志望で、民間企業に就職を希望しているのは約4000人だ。
こうした土木系で民間を志望する約4000人の学生は、その半分を関東エリアが占める。そのため、地方の会社でも、関東で求人活動を積極的に行うことが珍しくない。ただ、関東の学生は勤務地よりも仕事内容を優先して会社を選ぶ傾向にある。そのため、地方の土木会社が関東で人材を探すのは理にかなっているといえる。
2025年卒以降、採用目的のインターンが正式に解禁されることを契機に、インターンの対応もポイントの1つとなる。インターン期間は早期選考が始まる10月よりも前の8月や9月に設定されることが多く、告知は4月にスタートする。採用目的のインターン解禁になれば、学生への接触時期はより早期化することが見込まれる。
キャリア・ナビゲーションのデータでもインターンに参加する学生数の増加が表れており、2023年比で1.5倍となっている。インターン数が増えるのに比例して、内定につながる学生も増加するため、長嶋氏は「年内に内定を得る土木系の学生数が、1.5倍に増えるだろう」と予測する。
企業が求人の対象とする学生は、いわゆる“Z世代”。定義はいろいろあるが、1990年代半ば〜2010年代序盤に生まれた以外に、他世代とは異なる特徴があり、その点を理解しておくことも欠かせない。
長嶋氏は、「今の学生は会社規模ではなく、居心地を重視している」と指摘。居心地を良くしてもらいたいではなく、「自分がいても大丈夫か?」という思考からくるものだという。もし、会社の雰囲気が体育会系なら、学生とのコミュニケーションで、協力会社を含めて職場の雰囲気を変える必要があるかもれない。
同調意識の強さもZ世代の特徴だ。説明会で「何か質問はありますか?」と促しても誰も手をあげない。そのため、説明会よりは個別面談をしている企業が増えている。長嶋氏は「1時間で10人に話すよりも、1人に5分ずつ話す方が聞いてもらえる」とした。
他にも、自己の承認欲求が強いのもZ世代の傾向だという。「褒められたい」ということではなく、「存在を認知されたい」との意味だ。無理に褒めれば、敏感な学生にはすぐにウソがバレる。長嶋氏は、「ただ褒めるのではなく、1日の仕事ぶりに対して成長した点や課題などを1日に1分示すだけでもよい」と語る。
建築や土木の業界で働くことを目指しつつも、その業界にどんな会社があるのかを知らないことも少なくない。大学によっては、授業に建設会社の担当者を呼び、具体的な仕事内容に触れる機会を設けていることもある。しかし、多くの教授はシラバスの消化に忙しく、企業を招くのに消極的な人もいる。
長嶋氏は、学生を採用する企業に対し、学生には基礎知識がある前提で説明するのではなく、「会社のことを技術も含めてゼロベースで教えてほしい」と要望する。また、大学の教授に相談することで、「授業で自社を紹介するチャンスも十分にあり得る」とアドバイスする。
だだ、長嶋氏は企業が学生に縛りをかける風潮には警鐘を鳴らす。「学生には、10社ぐらいの会社を見比べた上で選んでもらうのが理想。それができないように頻繁に自社に呼びつけたり時間的に拘束したりすれば、学生は逃げてしまう。学生は企業が積極的になればなるほど断りづらくなり、連絡をしなくなる」。今では、企業が電話をしても、LINEで返信するのが普通だ。嫌われないように、うまく距離を縮めていく配慮が必要となる。
長嶋氏は最後に、「建設業界に魅力を感じることは、現役世代もZ世代も同じで、学生が業界のことを知らないのは、授業の忙しさや教授の考えによるところが大きい。Z世代は金銭よりも心理的インセンティブや仕事内容が志望動機の上位にくる。そのため、学生を募集する企業側が、建設業界を選ぶ理由や魅力を熱く語りかけ、対話や共感のアプローチが有効となる」と説いた。
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