文献5は、人流データから公共交通機関の利用者を推定しています。人流データには、歩行者や自動車など公共交通機関以外による移動も含まれるので、交通手段の分類を推定して、路面電車や路線バスの無料デーの効果を分析しています。
通行止めの影響を想定して、橋の重要度を検討しているのが文献5です。橋が閉鎖された場合の迂回路を検討するには、詳細な人流の情報が必要です。そこで、個人情報の秘匿性を確保しつつ、種々の統計情報を保持して、個人単位で生成し直した「仮想の」移動ルートのデータを利用しています。
下の地図では、番号を付けた橋について閉鎖時の重要度を評価しています。経済損失が大きい上位20位を示したのが、その下の図です。ルートの情報は、全世界を対象に自由な地図の作成プロジェクト「OpenStreetMap(オープンストリートマップ)」のオープンデータを利用しています※7。こうした分析は、インフラの維持管理や災害対応への活用が考えられます。
文献8は、購買時のポイントカード情報を分析した例です。下図は、赤で示したショッピングセンター(大桑二丁目)でのポイントカードのデータから、どこから来た人がどのような消費行動をしているかを、ビッグデータの特性からCluster1〜4に分類して色別で表しています。
Cluster1は、1000円未満の購入が、休日に多く減少しており、通勤や通学と相関関係のある消費行動だと考えられます。Cluster2は、1000〜5000円で回数が多いため、定期的な消費行動とみられます。Cluster3はCluster1と似ていますが、平日と休日で変化がないので、近所での消費行動と推察され、Cluster4は3000〜7000円の比較的高額な消費行動となっています。以上のように、消費行動の特性をきめ細かく調べることが可能です。
高度道路交通システムの「ETC2.0」は、従来のETCと比較して、「大量の情報の送受信」や「ICの出入り情報だけでなく、経路情報も把握」など、進化した機能を有したシステムです※9。
文献10は、ETC2.0から得られるデータを利用し、交通事故につながる“ヒヤリハット”を抽出しています。区画道路のパターンを、OpenStreetMapから下図のように分類して検討したところ、クルドサック型とループ型は、比較的安全性が高い構成パターンだと明らかにしています。二つの類型は、その特殊な形状により、通過交通を排除し、そのリンクに接続する家の住民しか基本的に通行しないためです。
また、他のETC2.0のデータ活用例として、文献11では、クルーズ船の寄港による交通混雑の影響などを検討しています。
人流データや購買ポイントのデータ、ETC2.0のデータなどの人の行動を表すビッグデータによって、都市や交通の特性が詳しく分かるようになってきています。多様な地理情報やオープンデータと組み合わせることで、地域に応じたきめ細かい知見を得ることが可能になり、防災や観光、産業などで幅広い応用が期待されます。
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