緊急事態宣言の効果や橋閉鎖の経済損失を検証 ETC2.0や人流など“ビッグデータ”分析例【土木×AI第24回】“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(24)(2/2 ページ)

» 2024年03月26日 10時00分 公開
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交通機関の無料デー効果や橋の重要度を分析

 文献5は、人流データから公共交通機関の利用者を推定しています。人流データには、歩行者や自動車など公共交通機関以外による移動も含まれるので、交通手段の分類を推定して、路面電車や路線バスの無料デーの効果を分析しています。

※5 「モバイル空間統計を活用した公共交通利用者数の動向把握に関する基礎分析」西内裕晶,安並真央/AI・データサイエンス論文集4巻3号p377-384/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年

 通行止めの影響を想定して、橋の重要度を検討しているのが文献5です。橋が閉鎖された場合の迂回路を検討するには、詳細な人流の情報が必要です。そこで、個人情報の秘匿性を確保しつつ、種々の統計情報を保持して、個人単位で生成し直した「仮想の」移動ルートのデータを利用しています。

 下の地図では、番号を付けた橋について閉鎖時の重要度を評価しています。経済損失が大きい上位20位を示したのが、その下の図です。ルートの情報は、全世界を対象に自由な地図の作成プロジェクト「OpenStreetMap(オープンストリートマップ)」のオープンデータを利用しています※7。こうした分析は、インフラの維持管理や災害対応への活用が考えられます。

対象橋梁の分布 対象橋梁の分布 出典:※6
橋梁の重要度評価結果 橋梁の重要度評価結果 出典:※6

※6 「仮想パーソントリップデータを活用した迂回シミュレーションに基づく橋梁の重要度評価」石橋寛樹,陣内寛大,石神晴久,森田大樹,岩城一郎/AI・データサイエンス論文集4巻3号p1-9/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年

※7 OpenStreetMap

ポイントカード情報で、消費行動の購入金額分布が判明

 文献8は、購買時のポイントカード情報を分析した例です。下図は、赤で示したショッピングセンター(大桑二丁目)でのポイントカードのデータから、どこから来た人がどのような消費行動をしているかを、ビッグデータの特性からCluster1〜4に分類して色別で表しています。

 Cluster1は、1000円未満の購入が、休日に多く減少しており、通勤や通学と相関関係のある消費行動だと考えられます。Cluster2は、1000〜5000円で回数が多いため、定期的な消費行動とみられます。Cluster3はCluster1と似ていますが、平日と休日で変化がないので、近所での消費行動と推察され、Cluster4は3000〜7000円の比較的高額な消費行動となっています。以上のように、消費行動の特性をきめ細かく調べることが可能です。

目的地に対する居住地クラスタ分類 目的地に対する居住地クラスタ分類 出典:※8

※8 「購買ビッグデータを用いた消費行動特性の地域分類に関する分析」橘翔太,藤生慎,森崎裕磨/AI・データサイエンス論文集4巻3号p841-851/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年

ETC2.0のデータで、交通事故につながる“ヒヤリハット”を抽出

 高度道路交通システムの「ETC2.0」は、従来のETCと比較して、「大量の情報の送受信」や「ICの出入り情報だけでなく、経路情報も把握」など、進化した機能を有したシステムです※9

※9 国土交通省「ETC2.0」

 文献10は、ETC2.0から得られるデータを利用し、交通事故につながる“ヒヤリハット”を抽出しています。区画道路のパターンを、OpenStreetMapから下図のように分類して検討したところ、クルドサック型とループ型は、比較的安全性が高い構成パターンだと明らかにしています。二つの類型は、その特殊な形状により、通過交通を排除し、そのリンクに接続する家の住民しか基本的に通行しないためです。

 また、他のETC2.0のデータ活用例として、文献11では、クルーズ船の寄港による交通混雑の影響などを検討しています。

区画道路の構成パターン例 区画道路の構成パターン例 出典:※10

※10 「ETC2.0データを用いた区画道路の構成パターンと走行挙動の関係に関する研究」中崎愛子,西内裕晶,M田愛/AI・データサイエンス論文集4巻3号p353-360/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年

※11 「ETC2.0プローブ情報によるクルーズ船寄港時の道路交通への影響把握」形屋陽一郎,藤生慎/AI・データサイエンス論文集1巻J1号p228-234/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2020年

 人流データや購買ポイントのデータ、ETC2.0のデータなどの人の行動を表すビッグデータによって、都市や交通の特性が詳しく分かるようになってきています。多様な地理情報やオープンデータと組み合わせることで、地域に応じたきめ細かい知見を得ることが可能になり、防災や観光、産業などで幅広い応用が期待されます。

著者Profile

阿部 雅人/Masato Abe

ベイシスコンサルティング 研究開発室 チーフリサーチャー。防災科学技術研究所 客員研究員。土木学会 構造工学委員会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会 副委員長を務めた後、現在はAI・データサイエンス実践研究小委員会 副委員長。インフラメンテナンス国民会議 実行委員も兼任。

近著に、「構造物のモニタリング技術」(日本鋼構造協会編/コロナ社)がある。

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