近年は人流や購買ポイント、ETC2.0などから、分析に優れた包括的なデータが得られるようになり、“ビッグデータ”のさまざまな分野での活用が広がっています。今回は、コロナ禍での緊急事態宣言の効果や都市計画の検討、交通事故の防止などを試みた具体例を解説します。
情報技術の発展に伴い、従来は得られなかった大量のデータが容易に取得できるようになり、今では「ビッグデータ」と呼ばれ、一般社会でも浸透しています。例えば、スマートフォンなどを通じた位置情報や行動履歴、インターネットの視聴や消費行動に関する情報、小型化したIoTセンサーなどで得られる膨大なデータが相当します。こうしたビッグデータは、どのように活用されているのでしょうか?
人がいつどこに何人いるのかを把握できるデータは、「人流データ」と呼称され、防災や街づくり、観光などでさまざまな活用が期待されています。国土交通省では、2019年1月から2021年12月まで、携帯電話端末などの位置情報データから得られる広域の人流データを公開しています。※1。
※1 国土交通省「全国の人流データ(1kmメッシュ、市町村単位発地別)を公開します」
★連載バックナンバー:
本連載では、土木学会 AI・データサイエンス実践研究小委員会 副委員長を務める阿部雅人氏が、AIと土木の最新研究をもとに、今後の課題や将来像について考えていきます。
文献2「人流データの時系列分析による緊急事態宣言の効果の分析」では、新型コロナウイルス感染症による“緊急事態宣言”の効果を、人流データの時系列分析で検討しています。下図は、第1回から第4回までの宣言前14日間と宣言中14日間の違いを表しています。第1回目の宣言発令直後は、高い人流抑制効果を発揮していたものの、発令が繰り返されると、前後の人流の差は小さくなり、効果が低下していくことが見てとれます。
※2 「人流データの時系列分析による緊急事態宣言の効果の分析」劉子恒,郷右近英臣/AI・データサイエンス論文集4巻3号p915-923/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年
ビッグデータを街づくりに生かすことも考えられています。文献3では、駅数/バス停数の都市空間属性と到着人流データを統合し、特性の類似したエリアを検索しています。赤枠が、JR「大阪」駅のあるエリアです。青枠が大阪駅と類似度の高いエリアで、バス停数や駅数の多いエリアになっています。また、黄枠は町村部にある能勢電鉄「ときわ台」駅のあるエリアで、オレンジは大阪駅とときわ台駅の中間的なエリアを抽出しています。
なお、エリアの分割には、フードデリバリーの「Uber Eats(ウーバーイーツ)」やライドシェアサービスを展開するUber Technologies(ウーバー テクノロジーズ)が開発した地球を六角形(ヘキサゴン)で分割する「H3(Hexagonal hierarchical geospatial indexing system)」という手法を使っています※4。
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