国内では、高速道路をはじめ、インフラ構造物の老朽化が深刻化している。笹子トンネル天井板落下事故を契機に、2014年度から道路構造物の5年に1度の定期点検が義務付けられた。国内に70万橋あるとされる橋梁も対象となり、道路管理者は近接目視をメインに1年で12万橋ほどの点検をしているが、人手不足や安全面への配慮に課題は多く、今後の持続性に課題を抱えている。
国内の橋梁(きょうりょう)は、高度経済成長とともに作られた物が多く、現在では供用開始から半世紀以上が過ぎ、老朽化が深刻化している。全世界規模で見ると、橋梁の経年劣化に由来する事故が毎年1件ほど発生しており、日本も例外ではない。
インフラの重大事故を防ぐため、日本では近接目視で5年に1度の全数点検が義務化されている。しかし、国内には約70万という膨大な数が存在し、約14万キロに及ぶ橋梁を毎年点検しなければならない。点検作業は高所作業で手間がかかり、安全面の懸念や人手不足の影響に、道路管理者や点検事業者は頭を悩ませている。
問題が山積するインフラ構造物の点検に対し、キヤノン、高速道路総合技術研究所(NEXCO総研)、東設土木コンサルタントは、業界の垣根を超え、AI技術を活用した新たな点検方法の開発に取り組んでいる。2015年以来、8年ぶりの開催となった展示会「Canon EXPO 2023」で、AIを活用した点検手法の技術開発を語ったセッション「AI活用による社会インフラ点検」から、3者が“三位一体”で目指すAIを用いた「点検DX」が、どこまで進展しているのかをレポートする。
キヤノン イメージソリューション事業本部 IIS事業推進センター主幹 穴吹まほろ氏は「こうした課題の解決に向け、業界をまたぎ、それぞれが持つノウハウを生かしたシステムづくりを目指している」と3者協業の意義を語った。
近接目視の点検をデジタル変革する動きは、さまざまな分野から望まれている。2019年に国土交通省が「道路橋定期点検要領」を改定し、従来は点検手法を近接目視だけに限定していたが、人が目視したのと同等の点検ができる手法であれば認めるように緩和している。
こうした動向を背景に、キヤノンは一眼レフカメラが土木分野の点検で用いられていることを知り、「カメラを提供する以外でも何か貢献ができるのではないか」と考え、参入を決めた。穴吹氏は点検作業を現地に足を運んで体験するなど、現場を肌で感じとり、東設土木コンサルタントに本気度が伝わり、共同研究に至った。
しかし、ひび割れなどの検知で新技術を活用するには課題があった。東設土木コンサルタントは、過去にひび割れ検知のシステム開発に取り組んだことがあった。当時のデジタルカメラで撮影した画像では、ひび割れがない箇所を誤認識してしまうことも多く、実地に使えるレベルではなかった。その後、AI登場前の2016年にはカメラの画質が向上したものの、画質が良くなったせいで、トレースできるひび割れの件数が大幅に増え、工数も増大してしまい、人の手作業だけでこなせる状態ではなくなってしまった。そこで、画像処理技術を採用したが、手直しの手間や信頼性の低さに問題が生じた。
共同研究は当初、2者で2018年にスタート。当時は、他社でもAIを使った技術開発の動きがあったため、東設土木コンサルタントからの「AI普及が避けがたいならば、自分たちで現場に即したAIとなるようにしたい」との要望を受け、キヤノンの豊富なカメラ/レンズ群やAI技術と、東設土木コンサルタントは点検ノウハウを組み合わせた。AIによるディープラーニングの学習を繰り返し、実用に耐えるレベルで、ひび割れを検知する「変状検知サービス」を開発した。
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