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建設業を悩ます“2024年問題”【前編】違反者は社名公表リスクも緊急寄稿「時間外労働の上限規制」を徹底解剖(2/2 ページ)

» 2024年02月09日 07時10分 公開
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時間外労働の上限規制で押さえておくべきポイント

 時間外労働の上限規制について、もう少し詳しくみていこう。

 まず時間外労働の定義だが、法律的には労働基準法32条に定められる法定労働時間「1日8時間、週40時間」を超えた労働時間のことをいう。

 使用者が従業者に時間外労働を命じる場合、使用者はあらかじめ従業者と協定(いわゆる36[サブロク]協定)を締結し、労働基準監督署に届け出をしなければならない(労働基準法36条)。この手順を踏んで始めて、使用者は従業者に対し、「月45時間以内かつ年360時間以内」の範囲で時間外労働を命じることが認められる。

 ただし、繁忙期や緊急時など、範囲内で業務が終わらないケースもあるだろう。その場合を想定して労使間で締結するのが、「特別条項付き36協定」だ。

 特別条項付き36協定を取り交わすと、特別条項で定めた時間を上限に、年間6カ月まで月45時間を超えて時間外労働を命じることができる。改正前は、特別条項で定める時間に法律上の制限がなかったため、この期間は事実上無制限の残業が可能だった。

 また、労働基準法36条5項では、特別条項付き36協定の使用を「当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加などに伴い、臨時的に第三項の限度時間※2を超えて労働させる必要がある場合」と制限している。しかし、対象範囲が曖昧で、それ以外のケースでも特別条項付き36協定を根拠に時間外労働が行われており、長時間労働の一因となっていた。

※2 労働基準法36条2項4号にある労働時間「対象期間における1日、1カ月および1年のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間または労働させることができる休日の日数」を延長して労働させることができる残業時間

 働き方改革関連法による労働基準法の改正は、特別条項付き36協定も含め、時間外労働の限度を規制するものだ。改正の要点は、次のようになる。

■時間外労働の上限は、改正前の限度基準告示と同じ、「月45時間以内かつ年360時間以内」

■臨時的な特別な事情があって労使が合意する場合(特別条項を締結する場合)でも、残業時間を以下の範囲内に収めなければならない

  • 年720時間以内
  • 残業時間と休日労働の合計が月100時間未満
  • 残業と休日労働の合計について、「2カ月平均」「3カ月平均」「4カ月平均」「5カ月平均」「6カ月平均」が全て1カ月あたり80時間以内
  • 月45時間を超過できるのは、年間で6カ月まで

 上記に違反した場合、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」の罰則が科されるおそれがあり、悪質なケースでは厚生労働省が企業名を公表することになる。

時間外労働の上限規制の見直し 時間外労働の上限規制の見直し 出典:厚生労働省「働き方改革関連法に関するハンドブック〜一億総活躍社会の実現に向けて〜」

 後編では、建設業で2024年4月が「問題」として注目される根本的な要因を考察し、それを踏まえ建設業界各社はどうすべきかを提言したい。

監修者Profile

歌代将也/Masaya Utashiro

うたしろFP社労士事務所 代表、合同会社ポジティブライフデザイン 代表

大手製紙メーカーで人事労務、経営企画、財務、内部統制、労働組合役員など、さまざまな職種や業務を経験し、在職中に社会保険労務士やFPの資格を取得。退職後、「うたしろFP社労士事務所」を開設し、人事や賃金の制度作成アドバイスや各種研修/セミナー講師などを行っている。

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