今回、取り上げるのは「建具工事」だ。スチールドア(鋼製建具)、アルミサッシ、ステンレスサッシなどがあるが、スチールドアを例に話を進めていきたい。当グループは、建材販売だけでなく建具工事も手掛けているため、サブコン目線で現状の問題点とその解決策としてのBIMの可能性について触れていく。
スチールドア工事のプロセスは以下の通り。
1.サブコンはゼネコンから建具表を受領し、2.見積して受注する。
3.受注後は納まりや金物仕様を決めて施工図を作り、4.チェックや修正を繰り返し、ゼネコンに承認をいただく。
5.建具製作工場に発注すると工場側(スチールドアメーカー)は、製造CADでいわゆる「バラ図」※3を作成し、製造工程に入っていく。その後、現場に納入されて、いざ工事となる。
※3 バラ図:加工図のようなものでスチールドア製作の際に必要な寸法や組み立てなどの詳細を描いた図
上記の現行プロセスには、3つの問題点(手間とリードタイム)が存在する。
当社では、3つの問題をBIMおよびクラウドサービスの独自開発した「BuildApp 建具」を使って解決を目指しているのだが、下図に示す通り、東亜建設工業などのゼネコンと実施した実証結果などから、作業時間で45%程度は削減できることを既に証明し、今後は緻密な実証実験に入っていく。
ここで強調しておきたいのは、5.製造工程との連動域だ。BIMの情報マネジメントという観点からすれば、BIMデータを製造データとして使える情報に変換して、製造CADに渡し、自動的に「バラ図」を作ってしまうまでの製造工程のプロセス変革を意味する。デジタルの世界や製造業に属する方から見れば、ごく当たり前の「改善」だと思われてしまうだろうが、こと建設業界にとっては革新的な取り組みといえよう。こうした動きは、ゼネコンが“Digital Faburication/Digital Manufacturing”と称して、鉄骨/鉄筋/PCなどで積極的に取り組んでいる。
この裏にある社会構造としての共通の問題点は、やはり人手不足で、その要因は製造CADエンジニアの高齢化にある。スチールドアの「バラ図」を書くエンジニアは、高齢かつ人材枯渇が始まっており、手が回らないために作図に着手するまで、下手をすると1〜1.5カ月の「待ち」が発生している。建設業の生産性を問われる中で言われる「手間/手戻り」だが、それ以前の「何もしない」時間が存在するということだ。
施工現場の人手不足(高齢者の離職、若者離れ、外国人離れ)がよく話題に挙がるが、当社は製造連携にも、もっとスポットライドを当てるべきだと問題意識を持っている。彼ら(建材メーカー)はBIMそのものを扱うわけではないし、厳密にいえば建設業ではなく製造業であり監督官庁も異なるかもしれない。
BIMが「DfMA(Design For Manufacture and Assembly:製造や組立の容易性設計を指し、製造容易性および組立容易性を考慮して設計すること)を一つのゴールにするならば、世の中はまだ、BIMでの「D:デザイン」ばかりに目を向けがちだが、「for MA:製造」にもっと深く取り組む人たちが増えてもらいたい。逆に言えば建設業界サイドから、何かしらの補助政策があってもいいのかもしれない。
もちろん当社は脇役ながらも、その先陣を切って変革に挑み、その成功例を世に広げていきたい所存だ。乞うご期待(とひとまず格好を付けて終わっておこう…)。
山崎 芳治/Yoshiharu Yamasaki
野原グループCDO(Chief Digitalization Officer/最高デジタル責任者)。20年超に及ぶ製造業その他の業界でのデジタル技術活用と事業転換の知見を生かし、現職では社内業務プロセスの抜本的改革、建設プロセス全体の生産性向上を目指すBIMサービス「BuildApp(ビルドアップ:BIM設計―製造―施工支援プラットフォーム)」を中心とした建設DX推進事業を統括する。
コーポレートミッション「建設業界のアップデート」の実現に向け、業界関係者をつなぐハブ機能を担いサプライチェーン変革に挑む。
守屋 正規/Masanori Moriya
「建設デジタル、マジで、やる。」を掲げるM&F tecnica代表取締役。建築総合アウトソーシング事業(設計図、施工図、仮設図、人材派遣、各種申請など)を展開し、RevitによるBIMプレジェクトは280件を超える。2023年6月には、ISO 19650に基づく「BIM BSI Kitemark」認証を取得した。
中堅ゼネコンで主に都内で現場監督を務めた経験から、施工図製作に精通し(22年超、現在も継続中)、BIM関連講師として数々の施工BIMセミナーにも登壇(大塚商会×Autodesk主催など)。また、北海道大学大学院ではBIM教育にも携わる。
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