こうした都市計画の検討方法に、デジタル変革をもたらすtorinomeは、課題の多かった市民参加の街づくりを変えつつある。
通常は自治体のWebサイトで発信される街づくりの情報が、テキストや平面図が中心のPDFデータだったため、仮に関心があっても探しづらく、プロでないと情報も理解しにくかった。さらに、街づくりに意欲的に参加する人々は、高齢者やそもそも関心が高い層などに偏っていたり、紙や模型ではイメージ共有しづらかったりと、議論する段階でもハードルが高かった。
torinomeを活用したワークショップでは、こうした課題解決に役立っている。全ての情報を位置情報とともに3D上に集約するため、現況や都市計画などが視覚的に理解しやすく、閲覧者にとっても必要な情報を自由に表示できる利点がある。
参加者の偏りも、3DとxR技術の活用で新しい技術に興味を持った若年層や働き手の世代などの参加も見込める。議論も具体的なビジュアルイメージで進められることに加え、議論途中でデータを保存可能なこともメリットとなっている。
先行するユースケースでtorinomeを活用した議論では、街を歩いてもらい、ARの3Dモデルで街のビジョンを参加者に伝えている。その後に、3Dモデルを使い、俯瞰や平面、一人称視点など、さまざまな角度から街の姿を見ることで、実感して将来像を描くことにつなげている。さらに、torinome Plannerを活用し、より議論が深まるようにも設計した。
こうした取り組みは2022年からスタートし、参加者からは「視覚化されて分かりやすい」「コメントを残せる点でアーカイブ性がある」「回を経るごとに議論を深められる」との好意的な意見が寄せられたという。
今後、ホロラボはtorinomeの特徴を生かし、街づくりだけでなく、設計や施工計画の立案、防災意識を高めるためのプレゼンなどでも活用を提案していく。
こうしたxR技術は、街づくりだけではなく、他分野でも急速に普及が進んでいる。設計のBIM/CIMや3DCGをAR/MRで可視化するソリューションも登場している。
これまで大容量で複雑なBIM/CIMモデルは、そのままではARで表示することは難しかった。3Dデータの書き出しやデータの軽量化、ポリゴンなどへの変換、アプリ表示とさまざまな工程が発生するため、トータルで1〜2週間と長期の作業が必要で活用例もまだ少ない。
そうした中で注目を集めているのがホロラボとSB C&Sが共同開発した「mixpace(ミクススペース)」だ。手持ちのBIMデータをクラウドにアップロードすれば、平均3分でAR用データに自動コンバートされる。
変換後は、Microsoft HoloLens 2やiPadで専用アプリを開けば、3DモデルがAR上で表示される。原寸大からコンパクトまでサイズ変更も容易で、データの持ち出しにも応じ、torinomeとの互換で、さまざまな用途に活用できる。
駅改修工事の3D測量業務でmixpaceを採用したビッグ測量設計の担当者は、「工事で作成した3Dデータは、列車の建築限界に支障しないように10センチや20センチのズレも許されなかった。mixpaceは位置合わせで役立った」と利便性を語るとともに、「今まで図面や1枚のパースしかなかったが、現地で3Dモデルを重ねて確認することで、一目瞭然で関係者に意図を伝えられた」と現場業務のDXにつながったと話す。
また、市街地の切り替え水路の設置工事で用いた不動テトラは、以前は2次元図面から構造物と現地の取り合いを確認し、問題なく施工できるか干渉チェックしていた。そのため、複雑な工事では分かりづらくなり、計画の共有に手間がかかっていた。mixpaceで3Dモデルと工事対象の現場を重ね合わせることで、関係者間で工事の完成形や交通規制のイメージなどの共通認識が形成された。
なお、mixpaceは、国土交通省の「NETIS(新技術情報提供システム)」にも登録され、現場活用によって総合評価で加点もされる。さらに、国土交通省の「建築BIM加速化事業」での補助対象ソフトウェアにも認定されている。建築BIM加速化事業は、建築BIMの社会実装に向け、官民連携のデジタルトランスフォーメーション投資を推進する環境整備を図るため、一定の要件を満たす建築物を整備する新築プロジェクトで、複数事業者が連携して建築BIMデータの作成などを行う場合に、その設計費や建設工事費に対して国が民間事業者などに補助を行う制度。
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