日揮グローバルは、金属3Dプリンタのプラント建設工事への本格導入に向けた適用検証を行った。3Dプリンタで直接構造物を造形することで、機器や配管部材の設計から製作や施工へのリードタイムの短縮や複雑で自由度の高い造形が現地で可能になる。
日揮グループの海外EPC事業会社日揮グローバルは、グループIT戦略「IT Grand Plan 2030」の一環で、「3Dプリンタ導入や建設自動化による建設工法最適化」を推進している。その中で、これまで世界的にも適用事例の少ない、「炭素鋼材料」を用いた3Dプリンタによる設計・造形を実施し、従来の製造方法と同程度の品質で造形する知見を獲得したと2023年11月に公表した。
日揮グローバルでは、EPC事業のプロジェクト遂行で、設計から工事までのリードタイム短縮や品質の安定化を目的に、大型3Dプリンタによる構造物の建設現場での直接製造を進めている。これまでに、大型構造物の造形への適性を考慮したセメント系3Dプリンタのガントリー型コンクリート系建設用3Dプリンタの導入を検討した。
金属材料を造形する3Dプリンタは、3Dプリンタの造形方式のうちの1つである「WAAM技術」に着目し、プラント建設工事において最も多く用いられる炭素鋼による配管部材などの製造を実現するため、2021年7月に3Dプリンタシステムを提供するオランダのスタートアップ企業「MX3D」と共同研究に着手した。MX3Dは、アムステルダムで初の3Dプリント鉄橋を製作したことでも知られる。
WAAM技術とは、金属材料として溶接用ワイヤを使用し、ワイヤをアーク熱源で溶融させて造形する3Dプリント技術。米国防総省が潜水艦の部品を造形するために導入を決めるなど、大型構造物の造形ができる。WAAM技術ならではの形状で重さを削減した造形物は、従来の圧延材を使用したH形鋼と比べ、圧延工程などのCO2排出量も削減する。
3Dプリンタでは、合金などの高級鋼は多いものの、プラント建設工事で最も多く用いられる炭素鋼の造形例がいまだ少ない。共同研究では、WAAM技術を用い、炭素鋼から配管部材を造形し、強度試験で造形品質を確認した。試験では、従来の配管部材と同レベルの品質で、炭素鋼から配管部材を製作する上での知見を獲得した。
また、共同研究では、Autodeskの機械加工向け3DCADソフトウェア「Autodesk Fusion 360」に搭載している表面が滑らかな最適化形状を得られる“ジェネレーティブデザイン”を使用することで、従来の配管関連部品の形状を最適化し、使用する材料の重さを減らす。研究段階では、配管サポートの最適な形状を選定し、使用する材料の重さを約3〜4割削減することに成功。強度も上がり、崩壊荷重の2〜6割の増加を達成したという。
現在、日揮グローバルでは3Dプリンタのプラント建設工事への導入を目標に、3Dプリンタで金属部品を製作する上で大きなハードルとなる外面塗装の疲労強度の課題に取り組むなど、技術実装を具体化するための検討を行っている。
大型3Dプリンタによる構造物の建設現場での直接製造を達成することで、設計から工事までのリードタイムの削減に加え、建設現場の人材不足を補うなど、プロジェクト遂行上のリスク低減に寄与することが期待されている。
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