うきでるくんの開発にあたって着目したのが、法面の健全部と浮き部に生まれるモルタル表面温度の違いだ。
健全部はモルタル面と地山が直接触れるため、モルタル表面の温度が低くなりやすい。しかし、浮き部は、モルタル面と地山との間に空気が入ることで断熱層が形成されるため、モルタル表面の温度が高温で維持される。「この温度差を赤外線画像で捉えて、AIに学習させることで、打音検査前のスクリーニングに活用できるのでは」というアイデアである。
開発に際し、まず石川県内に点在するモルタル吹付法面を4カ所を選定し、温度差が顕著に出る昼間に、ドローンを使って赤外線画像24枚を撮影して教師データとした。合わせて、コンクリート診断士による打音検査で浮き部を把握し、浮き部境界線にアルミニウム板を貼り付け、浮き部の目印にした画像を撮影。24枚の教師データを分割して学習するデータを増やし、それらを「浮きあり」「浮きなし」の2クラスに分け、回転/反転などの作業を加えて画像枚数の偏りを調整してから、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)で、浮き部の自動検出モデルを構築した。
その後、学習に使用していない画像を用いて汎用性能を評価し、30地点のコアサンプリングを行って検出性能を評価した。「基礎研究に約2年、実用化に向けた研究に約3年かけて、現在は90%以上の確率で浮き部を発見できるところまで精度が高まってきた」(ブース担当者)。
うきでるくんを活用した検査方法では、作業の効率化にもつながることを実証。「検査は、ドローンによる撮影、撮影画像のAI分析、分析結果に基づいた打音検査と損傷部の記録の3フェーズに分かれる。打音検査のみの場合よりも手順が増えるが、法面の面積によっては、うきでるくんをスクリーニングに使用することで、従来の2〜4割の作業効率化につながった」(担当者)。
今後は、別の場所に法面画像を使って検証したり、コアサンプリングを継続的に行い法面の表面温度と背面の性状が紐(ひも)づけられたデータを蓄積したりすることでモデルの精度を上げ、汎用性を高めていく。
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