金沢大学が開発した「のりメンテナンス うきでるくん」は、ドローンで撮影した赤外線画像をAI分析し、モルタル吹付法面の浮き部を検出する。打音検査前のスクリーニングに活用することで、作業の効率化が期待されている。
金沢大学は、「メンテナンス・レジリエンスTOKYO2023」(会期:2023年7月26〜28日、東京ビッグサイト 東展示棟)の構成展「第17回インフラ検査・維持管理展」で、AI(深層学習)を活用したモルタル吹付法面の浮き部診断システム「のりメンテナンス うきでるくん」の説明パネルとデモ画面を展示した。
モルタル吹付法面とは、急な斜面や崖などにコンクリートやモルタルを吹き付けて、風化や浸食、崩落を防ぐ工法のこと。海岸線や山間の川沿いの道路で、よく目にすることがあるだろう。
うきでるくんは、そのモルタル吹付法面をドローンに搭載した赤外線カメラで撮影し、取得画像をAI(深層学習)で解析して、目では見えない法面の浮き部を自動で判別するシステムだ。金沢大学、協同組合全国企業振興センター(IKOC:アイコック)、東洋設計、ユニークポジション、エオネックス、利水社が共同プロジェクトチームを組んで開発を進めてきた。
うきでるくん開発の背景には、モルタル吹付法面の維持管理の難しさがある。国土交通省は『国土交通白書2023』で指摘する通り、日本の社会インフラの老朽化は深刻な状況にある。インフラの多くが高度経済成長期以降に集中的に整備されたもので、今後は建設から50年以上経過する施設の割合が加速していくからだ。
こうした状況を受け、現在、全国でトンネルや橋梁(きょうりょう)、港湾施設などの点検/補修といった維持管理/更新作業が急ピッチで進められている。特にトンネルや橋梁の点検に関しては、ドローンなどのデジタル技術を活用した新技術が次々と社会実装されている。その一方、やや取り残されている領域もある。モルタル吹付法面の点検や補修だ。
その理由をブース担当者は、法面の維持管理を取り巻くさまざまな問題にあると説明する。「法面の亀裂や剥離、土砂のこぼれ出しと違い、浮き部の確認は目視では難しく、作業員が叩(たた)いて打音を聞いて判断しなければならない。そうした点検作業をできる熟練作業員の数が不足している。さらにモルタル吹付法面は、斜面や崖など自然地形に沿って施工するため、場所によって形態がさまざまで、画一的な維持管理が難しいこと、高所での危険な作業を伴うであること、点検時には高所作業車を用意したり、交通規制したりする必要があり、コストがかさむことも、点検が進まない要因となっている」。他にも、打音検査では、作業員の技術熟練度で判定結果が左右されやすいという課題もあるという。
モルタル吹付法面の打音検査が抱えるこれらの課題を一挙解決するために開発が進められてきたのが、うきでるくんだ。
【訂正】記事の初出時に、東洋設計の社名に誤りがあったため、訂正しています(2023年9月23日17時01分)。
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